新規事業創出部のオーディオションを通っているのは「HUIS REMOTE CONTROLLER」のみで、第1回のオーディションで200件近い応募の中から選びました。ほかの2つはそれ以前から進めていた平井(一夫氏)社長直轄のプロジェクトとして開始したものになります。
ただいずれのプロジェクトも選考は、ソニーモバイルコミュニケーションズで社長を務める十時(裕樹氏)が行っています。見るポイントも一貫していて、1つはチームリーダーとそのメンバー。やり切る覚悟があるか、柔軟性は持っているか、起業家タイプかどうかを見ています。2つ目はプロジェクトがユニークかどうか。3つ目が絵空事ではなく、きちんとしたビジネスモデルを描けているかです。それらを網羅的に見て、いけるなと思うものだけに投資をしています。
資金についても、チームメンバーからの提案方式にして、必要な金額を獲得する形で運営しています。最初から大きなお金をかけるよりも、つど必要な資金を投入してやっていく方式です。かなりの金額でも、それに見合うものであれば、投資をする可能性はありますが、現時点では、それなりの規模感で提案をしてきていますね。
通常のベンチャーと大きく違うのは、ソニーの資産をふんだんに使えることですね。社内には、20~30年とものづくりを続けてきたスペシャリストがたくさんいて、そうした専門知識や技術を少しずつ借りながら、作り上げていくことができます。
私自身、First Flightの事業を担当していて感じることですが、新規プロジェクトを立ち上げるために、社内のものすごく多くの人と出会うことができます。ベンチャーで大変なことの1つが人材の確保で、そのハードルを社内を歩いているだけでクリアできる。実際に会って話すことはもちろん、メールでもアドバイスはもらえます。これはソニー内だからこそのメリットだと強く感じています。
オーディションのプロセスにプレゼンを披露する場があるので、それを多くの人に見てもらえるほか、社内コミュニティをオンライン上に作りました。そこに自分のアイデアを掲載できるので、それを見てメールを送ったり、ウェブサイト上でコミュニケーションをとったりということができるようにしています。
あとは、トレーニング講座のようなものも設けていて、ビジネスモデルの作り方や財務諸表の書き方や作り方を教えるような講座も開いています。そうした講座を通しても、社員同士がつながれるようにしています。
現在進めている3つのプロジェクトは、いずれも20~30代の若手がチームリーダーを務めていますが、チームの中にはベテランの社員もいます。
若いメンバーは、フレッシュな考え方ができる分コンセプトもユニークなのですが、プロジェクトの進め方がスムーズではなかったり、ほかのチームメンバーと衝突してしまったりといったことも出てきます。そこに経験豊富なスタッフがサポートすると、うまくいくんですね。
また、壊れにくい製品に仕上げるためにおさえておくべきポイントなども経験を積んでわかっているので、品質面のサポートもしやすい。うまくいっているチームは、若いチームリーダーがビジョンを持ち続け、それをサポートするベテランがいる融合チームが非常に多いです。
フルタイムで従事しているメンバーもいれば、従来業務との兼務で参加しているメンバーもいます。また、数時間だけ専門的な部分を見るケースもあります。
具体的には、梱包設計などはプロジェクト全体の工程の中で必要となる期間は限られているので、その期間だけ、社内のプロフェッショナルが参加して作り上げています。梱包は専門知識がないとできませんから、チームメ ンバーだけで作ろうとすると、イチから勉強するか素人的なもので出すか、どちらかしかありません。ただ、一度作ってしまえばあとは同じものを使用するので、その工程のみ梱包のスペシャリストが参加しています。そうした、プロフェッショナルは、次のプロジェクトが来たらまたそれを手伝うという形でプラットフォームとして支えています。
またチームメンバーに助言をする「メンター」という役割を担う人もいます。新しいことにチャレンジすると、その途中でどうしても心が折れそうになったり、うまくいかないと言い訳ばかりをして前に進まなくなったりしてしまう時が出てきます。そうした壁にぶつかったときに、支えてくれたり、叱ってくれたりする人が必要なんです。
そうしたメンターの役割を担ってくれる人も、フルタイムではありませんが、数時間だけ、数日間だけの形で参加してくれています。ソニーの中には、過去にも数多くの新製品を立ち上げてきた先駆者がたくさんいますから、そうしたノウハウを後進に伝えていただくようにしています。
いろいろありますが、立ち上げた一番の理由は、事業の初期段階における販路の立ち上げだと思っています。ソニー自体は母体がかなり大きいので、新製品もソニーストア、家電量販店、さらに海外の店舗にまで、すべてに届く規模で開発、生産、販売をしていかなければなりません。
First Flightでは、まずは身の丈にあった販売数量を確保して売ってみようと思っています。規模感を追わないことで新しいものにチャレンジしやすい環境が作れると考えています。
実際、現在紹介しているプロジェクトも2014年の8月にオーディションに受かり、約1年後には製品を披露できています。このスピード感も大事にしたいです。
こうしたフットワークの軽さを維持しつつ、ソニーには製造のインフラとリソースがありますが、そこを強みにユーザーに“刺さる”ものを出していきたいと思っています。First Flightでは、年間に出すノルマなどは設けておらず、刺さるものがない場合は出さない、逆にたくさん出せるときは目一杯出すつもりで取り組んでいます。
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