電子書籍の国際標準規格であるEPUBの技術を活用した“電子新聞”を、7月22~24日の第22回新聞製作技術展で朝日新聞社が展示している。新聞の紙面や記事を、スマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末、4Kテレビなど、さまざまな機器に最適化して表示できる。また、広告商品やECと連動したサービスを組み込んだストリーミング配信も可能だ。
これは一時的な展示物ではない。次世代の新聞制作プロセスを考案し、新たなビジネスモデルを開発するという壮大な構想がある。
日本の新聞社は、紙の新聞製作のプラットフォームを長年にわたり維持してきた。しかし近年、デバイスやサービスなど多方面での急速なIT化と、読者の情報取得方法の多様化により、そのプラットフォーム構造の見直しが求められている。
そんな状況の中で同社は、新聞各社が、オーサリング技術やコンテンツ配信技術、データ解析技術などで新聞の新たな価値を共創するオープンプラットフォームにすべく、この取り組みを始めた。プロトタイプとなる現在のシステムは、ソニーの電子書籍部門の責任者を務めた経験のある野口不二夫氏が立ち上げたF55クリエイティブデザインスタジオと共同開発している。
オープンプラットフォームでは、記事テキスト、写真や図、見出し、レイアウト情報、属性情報、ページ構成情報などの既存の新聞データを、EPUBに変換しやすい新聞各社共通の電子新聞フォーマットにいったん変換する。そしてEPUB新聞データに自動変換し、アーカイブデータとして蓄積するとともに、電子新聞コンテンツとしてダウンロード配信ができるようにする。
事業企画を担当する朝日新聞社メディアラボ主査の鵜飼誠氏によれば、新聞各社がおのおのの紙面をそのままEPUB化するのはもちろん、許諾を得た新聞社の記事をユーザーの趣味や関心に合わせてキュレーションして、独自の紙面を提供することも検討している。また、新聞各社が組むことで、IT企業に押され気味のウェブニュースで巻き返すための足がかりにしたい考えもある。
プラットフォームの“出口”は「紙などのプリンティング」「データベースとその関連商品」「マルチデバイス展開をにらんだウェブフォーマット」の3つを想定。ウェブ変換にはHTML5を用いる。
「今の技術なら何でもできる」と野口氏は意気込む。EPUB化による利点は、(1)電子書籍との共通コンテンツの管理と配信、(2)縦書き/横書き混在やルビなど日本固有の書式への対応と、新聞紙面の複雑なレイアウトの再現、(3)スケーラブルフォント採用による高い文字品質、(4)全ページのカラー化など印刷の制約を離れた表現、(5)コンテンツ容量の削減によるダウンロード時間の短縮、(6)紙面広告のインタラクティブ化、ECサイトへのウェブ連携、(7)高度な閲覧履歴の取得と検索、(8)音声読み上げ対応――などがあるという。
新聞各社に声を掛けるのはまだこれからだが、鵜飼氏は展示期間中にすでに好感触を得ているようだった。ビジネスモデルを本格的に検討するのは、プラットフォームへの参加企業が集まってから。「今は朝日新聞社が主導する形になっているが、参加してくださる企業が『1社が目立たないように公平にやりたい』というのなら、それでも構わない」とも説明した。
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