JR西日本とKDDIは7月21日、北陸新幹線の乗務員によるiPad活用の模様を報道陣向けに公開した。JR西日本では、2015年1月から山陽新幹線に約890台の、3月から北陸新幹線に約180台のiPadをすべての乗務員に持たせ、乗客への運行情報の案内や、マニュアルの電子化を進めている。また、乗務員養成用に約100台を配備、合計約1200台のiPadを導入している。
2015年は山陽新幹線全線の開業から40周年、また北陸新幹線が開業した節目の年となる。JR西日本では、中期経営計画として新幹線のポテンシャルを高める取り組みを強化しており、その中で(1)異常時対応能力の向上、(2)顧客への情報提供の強化、(3)運転士・車掌の携帯品の軽量化に向けて、ITツールの導入を検討していたという。
iPadの導入にあたり、運転士には9.7インチの「iPad Air」を、車掌・客室乗務員には7.9インチの「iPad mini」を配布した。各端末には「列車運行情報」「幹在接続時刻表」「規程・マニュアル」「訪日顧客案内」の4つのアプリがインストールされている。いずれもJR西日本が独自で開発した。
これまで各路線の遅延情報は1件ずつしか見ることができなかったが、列車運行情報アプリによって、JR各社も含む新幹線・在来線の運行情報を一覧画面で確認できるようになった。これにより、遅れが発生した際などには、乗客に最新の情報を案内できる。幹在接続時刻表アプリでは、新幹線と在来線の接続状況をリアルタイムに検索可能だ。
紙で持ち歩いていた規程・マニュアルも電子データ化してiPadに集約したことで、運転士は重量約3kgの荷物が約800gに、車掌は約2kgが約700gに軽量化され、機器配置などもすぐに確認できるようになった。また従来は、異常が起きても運転士は無線でしか指令と連絡が取れなかったが、iPadを導入したことで、汚れた座席などの異常箇所をカメラで撮影して共有することで、原因をすぐに特定して的確な作業指示が送れるようになったという。
さらに、英語、韓国語、中国語に対応した訪日顧客アプリも搭載。現在は、車掌が外国人に車両の設備や、マナーなどの基本的な情報を伝えたり、忘れ物をした際の対応などに利用しているが、ゆくゆくは駅構内の案内や、観光マップなども多言語で提供することで、東京オリンピックが開催される2020年に向けて増加が見込まれる訪日外国人による地域活性化なども促進していきたいとしている。
山陽・北陸新幹線への導入から数カ月が経ったが、本当に乗務員はiPadを業務で活用できているのか。JR西日本によれば、1月から導入した山陽新幹線の乗務員へのアンケートでは約8割の返信があり、規程類を更新している乗務員も多いことから、使いこなすとまではいかないものの、継続して利用されていると見ている。
また、当初の目的としていた異常箇所の迅速な共有や、外国人へのスムーズな案内などの活用事例も出てきているとした。なお、最も利用されているのは運行情報アプリだという。今後の計画としては、新たなアプリを開発するのではなく、既存のアプリの機能や利便性を向上させていくとしている。
iPadの導入にあたっては、KDDIとともに乗務員が安全かつ便利に利用できるシステムを構築。KDDIの閉域網とプライベートクラウドを活用することで、モバイルからのセキュアなリモートアクセスを可能にした。また、クラウド型モバイルデバイス管理ツール(MDM)を導入することで、万が一端末を紛失しても情報漏えいの心配はないとしている。
パートナーにKDDIを選んだ理由については、すでにJR西日本における各種車内システムの接続に、KDDIの閉域ネットワークを利用しており、ネットワークのエリアカバー率や品質の高さを評価したと説明。また、北陸新幹線はトンネル区間が多く、ネットワークが圏外になってしまう時間も長いため、運行情報アプリ以外はオフラインでも利用できるようにしたという。
なお、JR西日本に先行して、JR東日本では2013年に全乗務員にソフトバンクモバイルのiPadを約7000台導入済み。さらに、2014年にはメンテナンス部門や建設部門にKDDIのiPadを追加で約1万4000台導入し、すでに幅広い業務で活用している。
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