スポーツはテクノロジの力によってどうイノベーションしていくのか。スポーツトレーナーの視点から、海外を中心とした最先端の知見と事例を紹介する。今回は「スポーツ×超音波」をテーマに、アスリートの体内のエネルギーレベルを超音波で計測し、それをもとにケガ予防に役立てる「MuscleSound」の取り組みを紹介しよう。
プロスポーツチームにとってアスリートのケガは致命的だ。チームの成績が悪化するだけでなく、コストが高くつくからだ。2014年だけで、MLBは6億6500万ドルをケガに費やしている。負傷した選手への給料や、代替の選手を探すためのコストがその多くを占めている。NBAでは3億5800万ドル、LAレイカーズだけで4400万ドルを占めている。
ケガがコストになるのは分かりきっていることで、スポーツ界全体で傷害予防に対する策が練られている。選手の活動レベルをトラックできるGPSデバイスなどいろいろあるが、今回はその中でもイノベーティブなサービスを紹介したい。
今日のスポーツ界において重要視されているのは、いかに効率よくトレーニングし、栄養補給し、リカバリーするかだ。カツ丼とキットカットでゲン担ぎする時代は終わった。この市場においてイノベーションはバイタルだ。
MuscleSoundは、体内のエネルギーレベルであるグリコーゲンやグルコースの指標を簡単にモニタリングすることができる。これによって、身体の状態に則したパフォーマンスに関するアドバイスを受けたり、最適なタイミングで栄養補給をすることができる。
MuscleSoundのおかげで、「疲れ」はビジュアルでリアルタイムに管理できるものになった。疲れは感じるものではないし、誰かが予想するものでもない。
歩行やランニングの際に消費されるのは炭水化物というのが一般的な認識だろう。しかし、強度の高い運動の中でエネルギーとして消費されるのは、グリコーゲンだ。グルコースと炭水化物が複合された状態のものである。
軽度な運動では、身体に蓄えられている脂肪を使ってATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー分子を生成することで運動をしている。ただ、強度が高くなってくるにつれ、グルコースの酸化(グリコーゲンの燃焼)をすることでATPの供給を早めていく必要がある。
80%以上のグルコース(400~500mg)は体内に貯蔵されており、運動の際にすぐに利用できる。問題は、グリコーゲンはその中でも1~2%に満たないことだ。また強度の高い運動ではすぐに消費されてしまう。
グリコーゲンを生成・貯蔵しておくことは難しく、アスリートのように強度の高い練習を継続的にする場合は、グリコーゲンの生成が追いつかなくなってしまうことが多い。これが原因で、しばしばオーバートレーニングにつながってしまうことが分かっている。
オーバートレーニングの何が悪いかというと、筋にダメージが残ってしまうことだ。本当なら骨格筋中や肝臓の中にグリコーゲンが蓄えられているはずだ。ただ、それが欠乏しているために、筋肉中のタンパク質やアミノ酸を使ってグルコースを燃焼させなければいけなくなってしまう。筋中のアミノ酸には分解作用が働いてしまい、筋が自分自身を食べてエネルギーに変えていくような状況が引き起こされてしまう。
長いアスリートのキャリアの中で、トレーニング量が多くなる時期があるのは長期的に見れば避けられないかもしれない。ただ、筋破壊が慢性的になるとグリコーゲンの貯蔵量は落ちてしまい、アスリートはパフォーマンスの低下を免れなくなってしまう。
グリコーゲンレベルのモニタリングには、MRIや生体検査を含む非常に長くて面倒なプロセスを経る必要があった。また、多くの場合、病院や医療従事者のいる場所でしかできず、一般的なアスリートが試せるものでもなかった。
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