佐賀県武雄市で実施されているICT教育の第1次検証報告会が6月9日、東洋大学(東京・文京区)で開かれた。2014年度に行われた、タブレットを使ったスマイル学習(武雄式反転授業)、プログラミング教育などの効果を東洋大学現代社会総合研究所が検証し、代表の松原聡氏らが報告した。報告書(PDF)は武雄市教育委員会がウェブサイトで公開している。
報告会では、タブレットを使った反転授業が成績向上に寄与した可能性があることや、プログラミング教育が、プログラミングの基礎習得だけでなく、さまざまな場で活用できる力につながっており、自ら意欲的に学ぼうとする力の伸長に効果的だったことなどが成果として挙げられた。
武雄市長の小松政氏は「市長会メンバーのICT教育への関心が高まっている。どのような結果が出るのか、検証を楽しみにしていると言われたこともある。(武雄市の取り組みと効果の検証は)全国の教育にとって価値のあるものだと認識している。引き続きPDCAサイクルを回して、子ども達の学力向上に努めていきたい」と意気込む。
武雄市では2010年12月、市内の山内東小学校にiPadを40台導入し、2011年2月には武内小学校に90台、山内東小学校にはさらに146台(2校の4年生以上の児童1人に1台)を導入した。ここまではiPadだったが、ICT教育の本格的な方針が固まり、2014年4月に市内の全小学生3153人に1台ずつ配布されたのは恵安製の7インチモデルだった。ストレージは16Gバイト、OSはAndroid4.2.2だという。
校内のWi-Fi環境の整備は2013年度から進め、2014年度には全小学校の全教室で無線LANネットワークの整備が完了。児童が一斉にデバイスを活用した場合でもストレスなく活用できる状態だと説明している。
タブレットの利活用が始まったのは2014年5月。全小学校3年生以上の「算数」、4年生以上の「理科」でスマイル学習を開始した。スマイル学習とは、「子どもたちがタブレット端末を家庭に持ち帰り、動画を活用し予習をした上で授業に臨む。授業の中では『学びあい・教えあい』などの協働的な学習を中心とした学びを行う」というものだ。
同学習は対象科目すべての授業時間に実施したわけではなく、授業時間数のおおよそ5分の1程度に充てられた。たとえば、3年生の算数の必須授業時数「175」のうち「32」、4年生の理科の必須授業時数「105」のうち「20」といった具合だ。
単元ごとに用いる動画は、各校の教員が原案を作り、算数はワオ・コーポレーション、理科はニュートンプレスが作成した。なお、2015年度実施の国語はブックスキャンが担当する予定という。
同学習の2014年度の実施率は、学校ごとに差が出た。算数と理科ともに95%に近い実施率であるのに対し、算数が43.6%の学校や、理科が33.6%の学校などがある。武雄市教育長の浦郷究氏は「初年度ということで、各校で進め方に戸惑いがあった。動画コンテンツを各校の教員が作ったことには意味がある。今後、それをどの教員にも使いやすいものにしていく必要がある」と説明する。
同学習が児童の成績に与えた影響は、武雄市の2014年4月の5年生の算数と(スマイル学習を実施していない)国語の成績を、同じ児童が6年生になった2015年4月の成績と比較して調べた。算数は成績が相対的に向上し、国語は低下するという結果が得られたという。
2014年度の各校の5年生算数のスマイル学習実施率と、スマイル学習実施前の成績の変化率の相関を分析した結果、相関関数は「-0.20697」となり、小学校ごとのスマイル学習の実施率と成績変化の間に正の相関関係は見られなかった。しかし、松原氏は「まだ1年しかやっておらず十分なデータがあるわけではないが、1つの結果として見てよいのではないか」とスマイル学習が成績向上に寄与した可能性があることを指摘した。
なお、報告書では「本来、学習方法の変更なり改善が即座に成績に反映するものではない。これまでに行われた主な大規模調査によれば、ICTを活用した教育の効果には、短期的に効果が表れやすい教科や領域とそうでないものがあることが知られている。また、ICT をどのような学習活動に活用するかによってもその効果の検証方法は異なる」と補足して説明している。
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