スポーツはテクノロジの力によってどうイノベーションしていくのか。スポーツトレーナーの視点から、海外を中心とした最先端の知見と事例を紹介する。今回は「スポーツ×Kinect」をテーマに、Nikeが開発した宇宙空間でのランニング体験を提供する「Force of Nature」を紹介しよう。
NikeとロンドンのスタートアップFIELDが、オーディオとビジュアルのサポートで全く新しいランニング体験ができるトレッドミル、Force of Natureを発表した。ランナーの動作を検知して、多彩な映像効果を用いてフィードバックする。1人ひとりの動作を解析し、ランナーがより速く、強く、遠くまで走り続けられるようにサポートすることが目的だという。
Force of Natureの体験を支えるのはマイクロソフトのKinectの持つセンサだ。トレッドミルにはいくつものKinectセンサが取り付けられており、ランナーの走る様子をトラックしている。脚の運ばれるスピード、シューズが地面にランディングする様子はすべてランナーの情報として蓄積され、リアルタイムでフィードバックされる。
映像効果のデザインは、FIELDの創業者であるマルクス・ウェント氏が担当している。マルクス氏は、長く大企業でLEDの研究をしていたデジタルアーティファクトの専門家だ。「ランナーが立ち向かわなければいけないのは、走る続けることがどういう結果をもたらすのか想像するのが難しい時だ。映像効果によってランニング中の感情を倍加することができると考えている」(同氏)。
ランナーからインプットされた情報を元に映しだされる映像は、「長く続くランニング中の感情の高まりをより増大させる」ことがコンセプトだという。ワークアウト中にトラックされた情報をアウトプットする技術は業界にあふれているが、Force of Natureはワークアウト体験をよりリッチにすることにフォーカスしている点で画期的だ。
現在のウェアラブルセンサなどはパフォーマンスをモニタリングすることにフォーカスしている。より正確なデータを蓄積してリアルタイムでフィードバックをすることで、ランの結果を向上させることが目的だ。
Nikeの今回のプロジェクトによって、今後スポーツウェアのテクノロジがどのようにイノベーションを重ねていくのか少し明らかになったかもしれない。現時点で最も有力なのは、アスリートやトレーナーにリアルタイムで「もっと速く、もっと強く、もっと高く」運動するようにインスピレーションを与える技術だ。
センサがトラックした情報をもとにリアルタイムで運動する人になんらかのフィードバックができれば、どんなスポーツでも能力の向上に貢献することができるだろう。ワークアウト体験を根本から変えてしまうようなプロダクトの登場が楽しみだ。
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渡邊拓貴(わたなべ ひろき)
2012年カリフォルニア州立大学運動生理学科卒業。早稲田大学スポーツ科学部4回生。専攻はアスレチックトレーニング。ロンドンオリンピックでは障害馬術競技選手の専属トレーナーとして帯同する。以降トレーナーとして各地で活動。
スポーツがテクノロジにもたらすイノベーションをテーマに専門メディア「SportTechBros」を創設。
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