パナソニックは5月22日、現在福島県の福島工場にて運営している植物工場について技術セミナーを開催した。植物工場が現在抱える課題について、またパナソニックの取り組みについて話した。
パナソニックでは、アプライアンス、エコソリューションズ、AVCネットワークス、オートモーティブ&インダストリアルシステムズという4つの社内カンパニーを横断する形で、植物工場などを運営する「アグリ事業」を推進。家電事業で培った技術をいかし、施設園芸、植物工場などの次世代農業に取り組んでいる。
植物工場は、オーディオやデジタルカメラを製造していた場所を2013年にリノベーションしたものを使用。現在、日産1800株を生産しており、グリーンリーフやフリルレタスなどを福島県内の30店舗に納入している。
パナソニックAVCネットワークス社マーケティング担当アグリ事業推進室主幹の松葉正樹氏は「パナソニックの工業的ものづくりのノウハウで農業に取り組む。経験と勘だよりではなく工業的アプローチでデータ化することで、再現性ある農業へ改革していく」とアグリ事業について話す。
植物工場に必要になるのは、空調、制御、照明、センシング、大量生産技術など。パナソニックの社内にはそのすべてがそろっており、「植物工場ができるすべてあると言われていた」(松葉氏)という。
インフラ面がそろっていても、植物工場を運営していくにはたくさんの課題がある。最大の課題は「販売先の確保」。これに関して松葉氏は「現段階で、ここに関する答えはまだみつかってない」とした。それ以外には棚によって育成スピードが異なったり、重量歩留まりが悪くなったりする「不均質な栽培環境」、「電気代、人件費がかかりすぎる」といったコスト面などが課題だという。
一般的な植物工場では、植物を育てる棚間に温度差が生じ、それが成長の差につながっていた。「一番下の棚は春の気温だが、一番上の棚は夏の気温になってしまう。これでは工場とよべない」(松葉氏)とし、パナソニックでは「特殊空調技術」を採用。通常4~6度ある棚間の温度差を1.5度以内に抑え、60~70%程度だった重量歩留まりを95%まで実現したという。また、反射板を利用することで照明本数を半減。消費電力を抑えることに成功した。
パナソニックが狙うのはこうして培ってきた植物工場システムの商品化だ。設計から施工までを請負い、全国に約2万件あるといわれる廃工場や空き倉庫の活用を促す。
植物工場の稼働後には、ネットワークで常時遠隔監視することで、栽培環境をサポート。業務用のウェアラブルカメラも導入し、画像を見ながらリアルタイムに課題を解決するなどのバックアップ体制も整える。
また、味や食感を制御できるというLED栽培のメリットをいかし、特定栄養素の多い、少ないなどがコントロールできる「機能性野菜の栽培レシピ」も開発中だ。
「植物工場を黒字化させるにはレタス換算で日産2000株以上の投資が必要。パナソニックでは、初期投資は少しかかっても、ランニングコストを抑えることが重要だと思っており、それが黒字化の鍵だ。植物工場の野菜には露地物にはない、無限の可能性がある。無洗浄で食べられる、安定供給ができるなどのメリットを訴え、将来的には生産された植物の販路まで提供していきたいと考えている」(松葉氏)と今後の展開について話した。
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