「ソフトバンクを創業して30数年。いままでは海外の会社に投資する立場だったが、これからは『世界のソフトバンク』として、日本にも大きく事業を展開する立場になりたい」――ソフトバンク代表の孫正義氏は、5月11日に開かれた決算会見で、通信からインターネット領域へと軸足を移すことで、世界展開を加速させる決意を表明した。
これに併せて、ソフトバンクは7月1日に商号を「ソフトバンクグループ」に変更。また、ソフトバンクモバイルの商号を「ソフトバンク」に変更する。4月1日にソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ワイモバイルを吸収合併し、同社の事業領域が移動通信サービスから固定通信サービス、インターネット接続サービスまで拡大したことを踏まえた変更となる。
2014年度(2014年4月~2015年3月)の売上高は前年同期比30.1%の8兆6702億2100万円となった。営業利益は同8.8%減の9827億300万円だったが、ガンホー・オンライン・エンターテイメントとウィルコムの子会社化にともなう一時益を除くと19%増。純利益は同28.5%増の6683億6100万円となった。
2005年のボーダフォン買収時は763億円だったモバイルの営業利益は、この9年間で約9倍の6953億円に成長している。当初は大手3社の中で最下位だったスマートフォンのパケット接続率や通信速度も、多額の設備投資の結果、いまではトップを維持していると説明。現在、孫氏はソフトバンクモバイルの会長となり、宮内謙氏が代表取締役社長 兼 CEOとして国内の通信事業の指揮を取っている。
また、苦戦が続いていた米Sprintも、携帯卸売業者BrightstarのCEOだったマルセロ・クラウレ氏による新体制以降は、ポストペイドの純増数や解約率が改善傾向にあるとし、ネットワーク品質も向上しているという。孫氏は、ここ1カ月以上、Sprintの次世代ネットワークの設計に関わっていることを明かし、同社の舵取りについても「明るい兆しが見えてきた」と語る。
このように、国内外の通信事業が軌道に乗り始めていることから、今後はもう1つの柱である「インターネット事業」にリソースを集中させることで、世界に通用する“第2のステージ”へ進むと孫氏は意気込む。
「この10年間、私やソフトバンクの経営陣は、通信のインフラというところにほとんどの精力を使ってきた。インターネットへの投資については、趣味のように続けていたわけだが、ここからはその通信のインフラを始める前の、インターネットに集中的な投資をしてグループを構築していた状況にもう一度戻し、本格的に世界のソフトバンクになる」(孫氏)。
孫氏は過去にIT業界で大きな成功を収めた多くの企業について触れ、「この30年の間に、世界を制すると思われたIT業界のトップブランドの会社が続々とピークを過ぎ、その成長が止まってきている」と指摘する。これは、どんなに革新的な製品やサービスでも、30年が経つとテクノロジ、創業者、そしてビジネスモデルの3つが陳腐化してしまう「30年ライフサイクル」に陥るためだと説明する。
そこで、孫氏が解決策として打ち出したのが、1社ではなく複数社による「革新的な起業家集団」を作り、グループを成長させること。中国のEC最大手「アリババ」や、フィンランドのスマートフォンゲーム事業者「Supercell」、東南アジアのタクシー配車アプリ「GrabTaxi」など、各国で急成長する企業やサービスに投資し続けることで、グループ全体を拡大させたい考えだ。
「ソフトバンクは次の30年でも決して大企業になりさがりたくはない。大企業になりさがるということは、私にとっては最大の屈辱である。いまもベンチャラスでありたいし、輝いていたいし、伸び続けていたい。そのために野心的な起業家とパートナーとして一緒に経営を拡大していく。一緒にビジネスモデルを革新させていく。お互いにシナジーを出し合う」(孫氏)。
また、多くの日本のインターネット企業が、ビジネスモデルや文化、言語の壁によって、世界展開に苦戦しているが、各国の優れた企業に投資することで、この問題も解決できるとした。「こういう形態は世界でも非常に珍しい。我々が初めてそういうモデルを実現させている企業集団ではないか」(孫氏)。
この世界展開において重要な役割を担うのが、2014年10月にソフトバンクに参画した、元Google最高幹部のニケシュ・アローラ氏だ。Googleでは経営上の意思決定に参加するとともに、戦略的パートナーシップやマーケティング、営業、顧客対応まで多岐にわたって管理していた。孫氏も「テクノロジ、ビジネスモデル、人脈においては、私を遥かに上回るだけの才覚を持っている」とその手腕を認める。
同日にはアローラ氏が、ソフトバンクグループのナンバーツーである代表取締役副社長に就任することも発表。孫氏は「上場以来初めて、プレジデントというタイトルをニケシュに譲り、私がCEO チェアマン、彼がCOO プレジデントという立場で、一緒にソフトバンクの第2のステージに挑戦する」と新体制にかける思いを語った。
なお、孫氏は同日、アローラ氏を実質的な後継者として考えていることも明らかにしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」