一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は5月8日、最高裁判所が下した公正取引委員会に対する排除措置命令取り消し審決の取消判断について会見を開き、「一言でいえば残念な結果」(菅原瑞夫理事長)との考えを示した。
審決取消等請求は、イーライセンスが公正取引委員会に対して行ったもので、放送分野における使用料徴収方法が独占禁止法3条違反(私的独占)であるとして公取委がJASRACに対して出した排除措置命令が2012年6月に取り消されたことを不服として提起。2014年11月に東京高等裁判所が審決の取消判決を下し、この4月の最高裁による上告棄却によって確定していた。
判決について、菅原理事長は「音楽著作権の管理事業は通常の取引における市場とは異なる特性があり、そうした点について(公取委の)審決では十分な議論がなされたが、今回の最高裁判決においてはそうした理解が見当たらなかった」とコメント。また、判決において現状JASRACが放送事業者から得ている使用料を分け合うべきとする考えが見える点について「市場規模を(司法が)定めるようなもの」との疑問を呈した。
問題とされている使用料徴収方法、いわゆる包括契約については「2008年に公取委から最初の立ち入りがあって以降、より理解しやすい仕組みに変えられるよう協議を続けてきた」と説明。放送事業者、JASRAC以外の音楽著作権管理団体(イーライセンス、JRC)と協議を行うなど改善にむけた動きが進められており「包括契約が違法であるかどうかはともかく、客観的にみてわかりにくいということならよりよい方法をとる」(同)とした。
公取委による立ち入り検査が行われたのは2008年4月。実に7年が経過した時点で振り出しに戻った形の本件だが、菅原氏の話にもあった5社協議(NHK、民放連、管理団体)の実施などを見る限り、事実上、ゼロからのやり直しというわけではない。
当時から必要性が指摘されていた「番組利用曲目の全曲報告」は放送局側の準備を含めかなりの進展が見られるほか、この4月からJRCが放送分野の音楽著作権管理に参入したこともまた、業界全体における大きな動きと言える。
一方、菅原氏が懸念を示した「放送市場規模の概念」に関する司法判断は、今後の審決、また事業者・団体間協議においても議論が紛糾する見込みだ。現状、JASRACは放送番組における音楽使用料として放送事業収入の1.5%を徴収しているが、この料率を放送局側支出の上限として管理団体3者が分け合う、とする考え方には依然として反発する姿勢を見せており、新規参入団体がそれぞれ管理楽曲数、利用曲数などに応じた料率を定めて契約すべきとの考えを崩していない。
管理団体に権利を預ける著作権者の視点に目を移すと、近年における「放送番組使用料の大きさ」は気になるところだろう。著作権使用料の分配額が多い楽曲を表彰する「JASRAC賞2014」のランキング上位を見ると、銅賞に輝いた「Time goes by」をはじめ、楽曲セールスのランキングとは異なる顔ぶれが散見する。
CM採用曲の場合は放送番組使用とは別の契約が発生するため一概には言えないが、セールス市場の落ち込みが続く中、安定して高い配分額を得られる放送分野での楽曲利用はより重要な収入源となってきている。多くの権利者から多数の楽曲を預かるJASRACとしては権利者の手前もあって簡単にシェアを明け渡すわけにもいかず、また新規参入組から見れば極めて魅力的な市場と言えるわけだ。
排除措置命令からその取消審決、さらにその取消を取り消す判決まで長い年月を費やし、その中で交わされた主張や議論によって実務的に動き出した部分が少なからずある反面、形の上ではゼロからの再スタートとなる公取委審決を「やり直す」覚悟を決めているJASRAC。放送市場をめぐる「権利の代弁者」たちの戦いは、以前にも増して熾烈なものとなりそうだ。
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