スタンフォードとシリコンバレーのエコシステムに含まれる要素は、まだある。冒頭で年間300件のイグジットがあると解説したが、IPOだけでなく、「OracleやGoogle、Facebookなどの大企業に買収される」可能性もあり、イグジットの環境にも恵まれているとアン氏。さらに、その後新しいスタートアップを立ち上げやすい環境でもあり、「これが大事」だとも述べる。なぜなら、「失敗が失敗でなくなるから」。スタートアップとして完全に成功しなくてもイグジットの方法がいくつも存在し、失敗しても雇用があり、戦うチャンスがもらえる仕組みになっているのだ。
櫛田氏は、「卒業生のネットワークで、OBをどう上手に横につなげてアクティベート(活性化)できるか」も大切だとし、それを代表するような例を1つ挙げた。その例とは、スタンフォードを卒業した後Appleに勤め、アプリストアの仕組みを作っていた人がスタンフォードでアプリ開発の講座を開くことになったというもの。それに触発された学生がAppleに就職したり、アプリ開発会社を立ち上げることにもつながったが、その後、講座を開いた人物がAppleを退職して新たにベンチャー企業を立ち上げた際、集まったスタッフがかつての教え子で、それが今のFlipboardであるという、まさに美しいエコシステムの典型だ。
このような活発なエコシステムのあるシリコンバレーではあるが、先進国の中で唯一上手に活用できていないのは日本だけだという。これまで「優秀な日本の人たちは大企業の中にとどめられてきたので、貢献できなかった」としながらも、「その流れがここ数年でだいぶ変わった気がする」とも述べる。
大学時代にロボットを用いた競技に参加したというアン氏は、日本が成功するには「リソースを活用すること」が大事だと強調する。「ロボット競技では京都大学と大阪大学が抜群に強く、テクノロジで日本は強みをもっている。Ruby on Railsのコミュニティに貢献している人もおり、新しいスタートアップベンチャーが生まれるだろうと楽観的に見ている」と期待を寄せる。
「日本はインフラがすばらしい」とコメントしたのはハーピン氏だ。「かつては米国企業が日本に製品を販売してきたが、今や(日本など)アジア企業が米国企業を買収している」とし、これが「この3、4年で日本が一番変わっている部分」だと感じている。「起業家になりたければ、やってみること。それもできるだけ早い段階で。成功しようと失敗しようと、その若い創業者に対しては寛大に」というのが同氏の主張だ。
3人の意見に同調するかのように、最後に松田氏も自身の経験を踏まえ、「日本で何もしていないかというと、そうではない」と語る。東京大学には多くの企業が参加するインキュベータープログラムがあり、ここ5年間で8社が上場していること、いわゆるエンジェルと呼ばれる投資家も多すぎる状況にまでなっていることなどを挙げ、「スタンフォードのよいところをどんどん取り入れていて、大きな未来を感じた」と話す。
最も多くのスタートアップが生まれているシリコンバレーは、最も多くの失敗があった場所でもあるとし、ただ失敗したからといって悲観的になる人はいないと同氏。「このポジティブマインドがシリコンバレーを作っているのだと思う。東京大学でもポジティブな話が聞けたし、日本はどんどん強くなる。そしてもともとシリコンバレーを生んだのが日本だということであれば、またシリコンバレーを追い抜く日が来るのではないかと、心から期待している」と結んだ。
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