新経済連盟の主催で4月7~8日に開催されたグローバルカンファレンス「新経済サミット 2015」(NES2015)で、「ロボットが変える未来」と題したセッションが開催された。ランサーズ代表取締役社長CEOで新経済連盟幹事を務める秋好陽介氏をモデレーターに、Grabit共同創業者兼アドバイザーのチャーリー・ダンチョン氏とispace代表取締役の袴田武史氏が「ロボットによって、わたしたちの生活はどうなるのか」をテーマに、ロボット開発の最先端事情や普及に向けた課題などを語り合った。
スピーカーとして登壇した2人のパネリストは、いずれもロボット開発の企業を率いるトップ。ダンチョン氏は、EIG AmericaやArtificial Muscleといった企業のトップを務め、シニア・マネジメントとしてロボットやオートメーション関連企業の成長を30年以上率いてきた人物だ。
米国ロボット工業会(RIA)をはじめ、オートメーション・テクノロジー・カウンシル、全国電機製造業者協会(NEMA)のオートメーションフォーラムで役員を歴任した経歴を持ち、2011年に電気接着方式によるグリッピング技術を用いたロボット・オートメーション企業であるGrabitを設立。現在は共同創業者兼CEOを務めている。
袴田氏は、米ジョージア工科大学大学院で修士号を取得後、コンサルティング会社を経て、2010年から民間月面ロボット探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本唯一のチーム「HAKUTO」を率いて参戦し、18チーム中トップ5に入る中間賞にも選ばれている。
現在は、運営母体であるispace社の代表取締役を務め、東北大学の吉田和哉教授と、月面探査車「ローバー」の開発などを進めている。2016年後半には米国の企業と組んでロケットの打ち上げも予定している。
ロボット産業の活発化により、将来的には今以上にロボットが人間社会に深く入り込んでいくことが予想される。人に代わってロボットが様々な役割を担うことが考えられるが、具体的に社会に与えるインパクトやもたらされる変化にはどのようなものが考えられるのだろうか。
「ロボットを生産向上のためのツールとして導入すると、製品コストが下がり、それが生活の質を上げることにもつながる。海外に生産拠点を移した企業は、国内にもう一度戻すことができるようにもなる。そうなれば、国内に製造の仕事やサプライチェーンを増やすことができ、ロボットによって新しい仕事をつくれる」と、ダンチョン氏。
袴田氏は、「端的なところで言うと、火山探査など危険が伴う作業などは、ロボットの力を借りることで人間の安全性を高められる。さらには、ロボットが宇宙に行くことで、宇宙で人間が活動していくための基盤を作れる」と話す。
ロボットが人間社会に入り込むと、人間の仕事がなくなってしまうのではないかという懸念もある。しかしダンチョン氏は「歴史を振り返っても、ロボットが社会に入ることで、新しい仕事がたくさん生まれている。2009~2013年にかけてロボットを使っている各企業にインタビューをしたところ、自動車業界だけでも、15万人分の新規雇用が生まれていた。
ロボットに仕事が取って代わる部分はたくさんあるが、そういった仕事は、取るに足らないものだったり、危険だったりすることが多い。また、メンタルヘルスの面からロボットに仕事を置き換えることもある。つまり、ミクロで見れば確かに置き換えではあるが、マクロで見ると非常に健全なことだ」と、前向きな見方を示した。
一方、袴田氏はロボットと共生するに至るまでは、確固たる障壁があるだろうと指摘する。「人間とロボットは、最終的に共生していくとは思うが、導入部分に大きな壁がある。特に日本では、ロボットに対する幻想があるような気がしている。
日本におけるロボットは『ドラえもん』や『鉄腕アトム』に代表されるような万能型のイメージが強い。しかし現在のロボットは、人間が作り出すものであり、基本的には人間が立てた仮説の中でしか動くことができない。さらにいろいろな機能を組み合わせると、複雑になり開発のコストも時間もかかってしまう。
もう1つの壁は安全性と品質。特に日本は安全性と品質を重視する傾向が強く、これは人間側に問題があると思う。例えば自動車の自動運転に本当に身を預けていいのかという不安がある」と述べ、最近のロボット開発の傾向は、万能型ではなく、人間の能力をアシストし、部分的な機能を付加していく流れにあることを明かした。
ロボットの安全性に対する懸念は、アメリカ社会にも存在するという。しかし「ヨーロッパでは『CE』という安全性に対する基準と認証があり、例えば、静電気を利用して物体を持ち運べる『グリッパー』も、高圧でもショックを受けないというCE認証を受けている。
ただ、人工知能(AI)になると、ソフトウェアが自動的にソフトウェアをつくり出すようなことにつながり、ロボットが人工知能を持っても安全なのか? これは重要な質問だ」とダンチョン氏は話す。ただし、1942年に作家アイザック・アシモフ氏によって書かれた小説「アイ,ロボット」を例に挙げ「この作品では、ロボットに3つのルールが与えられている。第1に“人間に危害を与えてはならない”。第2に“常に人間に従順であること。ただし1つ目が問題にあるときは例外である。第3に“ロボットはルールに反しない限り常に生存する必要がある”。この3原則は、人工知能がロボットに入ってきた今の時代においても重要なルールだと思う」と語った。
また、袴田氏も「シンギュラリティ(技術的特異点)を超えると、人間が制御できない領域に入っていくストーリーは、確かに考えられなくはない。特にAIは、今まで人間がプログラミングをする範囲で、人間の立てた仮説の中でインテリジェンスを実現してきたが、人間の思考の範囲外、人間の仮説を超えたところで発展する動きも出てきている。
それがさらに発展していくと、機械が人間の知性を超える部分が出てきてしまうと思う。ただ、原子力の利用にもあったように、人間の行動指針が最終的には必要になってくる。その観点では、すでに本田技研工業の二足歩行ロボット『ASIMO』が登場した時点で、ロボット3原則ができており、人間側がその原則をフォローしていくべきではないか」と続けた。
一方、ロボット自体や産業の将来性、未来の社会については、それぞれ次のように展望を語った。
「私自身、ロボット業界に何十年も関わってきたが、今ほどいい状況はない。コストもどんどん下がり、アームなどのメカ的部分もコモディティ化している。
例えば人工筋肉は、ギアやモータだけでなく、ポリマでも作れるようになったし、以前は米国の国務省が数100万ドルをかけて開発していたドローンのようなものが、今は400ドル程度で買えるようになった。ローコストで消費者向けのロボットが大量に出てきており、今まで以上にいい成長が望めると思う」(ダンチョン氏)
「ロボットにはいろいろなアプリケーションがあって、我々が携わっている、人が立ち入れないところにアクセスできるロボットもその1つにすぎない。いろいろなアプリケーションがある中で、どのロボットがどの順番で世に出てくるかを予測するのは非常に難しいが、確実に人間の生活に入り込んでいる。いきなりアトムやドラえもんのような万能型ロボットが出てくるとは思っていないが、『ルンバ』のように身近なところから生活に入り込み、気付いたら周りにロボットがいるような社会になっていくと思っている」(袴田氏)
少子高齢化社会に突入し、日本の課題は労働力不足と言われている。そんな中、新たな労働力の担い手としても期待され、今後ますます活発化しそうなロボット業界だが、モデレーター役の秋好氏は「ロボットが人間に対して単純に貢献できるかとだけでなく、ロボットを使うことでより幸せになれると感じることができた」と、最後に感想を語り、セッションを締めくくった。
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