青または緑の陣営に分かれてポータル(拠点)を奪い合う位置情報ゲーム「Ingress(イングレス)」。現実世界の観光名所やランドマークがポータルになっていることから、プレイする中で地元の魅力を再発見できる、歩数が増えて健康的になるといった文脈で語られることが多いが、ゲームの“プロ”はIngressをどう評価しているのだろうか。
岩手県庁が2月14日に開催したIngressの町おこしイベント「ハック&キャンドル in 盛岡」で開かれたトークセッション「特濃!ゲーム開発塾」で、ゲームアナリストの平林久和氏が“ビジネス”の視点から、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC」の運営委員長なども務めたゲームクリエイターの吉岡直人氏が“技術”の視点から、Ingressへの思いを語った。モデレーターは、「岩手県庁 Ingress 活用研究会」主宰の保和衛氏が務めた。
◇岩手県庁のIngressイベント
岩手県が「Ingress」で名所巡りや“わんこ対決”--町おこしイベントに密着
「観光にピッタリと確信」--岩手県「Ingress」ムーブメントの仕掛け人
Ingressのヘビーユーザーである2人は、この位置情報ゲームをどう見ているのか。まず吉岡氏は、地域ごとにそれぞれの歴史を積み上げてきた日本という国と、GPSを使って名所巡りができるIngressの相性の良さを挙げ、「お年寄りの話が面白くなるゲーム」と表現した。
「アニメやゲームの聖地巡礼で、街が賑やかになったりお金を落とすことはいいが、両者の間には深い溝がある。たとえば、箱根がエヴァンゲリオンとコラボして街やコンビニが装飾されたりするが、秋葉原ではいいのに箱根だと何だか違和感がある。Ingressなら地元の人と遊びに来た人が本当の意味でお互いに利益を得られる」(吉岡氏)。
また、グーグルが2014年4月にエイプリルフール企画として開催した「ポケモンチャレンジ」にも言及。「Google マップ」アプリ上のいたるところに生息するポケモンを捕まえるという内容だったが、これも同社が日本で大規模にIngressを展開するための実験だったのではないかというのが吉岡氏の見方だ。
「東京でIngressをやった場合、アメリカなんか目じゃないくらいトラフィックが発生することは予測していたと思う。(ポケモンチャレンジが開催された)当時は『一体これは何だろう』と分からなかったが、どういうパターンでユーザーが動くのか実験していたと考えれば非常に腑に落ちるイベントだった」(吉岡氏)。
そのほか、ポータルとポータルをつなぐ「リンク」を張れるかどうかを、瞬時に判断する計算をどのように行っているのかを考えながらプレイする、ポータルの勢力図を見ることで、世界各国のスマートフォンの普及率や貧富の差を分析するなど、独自の視点でのIngressの楽しみ方を伝授した。
ゲームアナリストの平林氏は、Ingressについて「自宅の近所など同じところを何度リピートしても飽きない構造設計をしており、位置情報ゲームとして作り方がうまい」と評価。また、日本ではあらゆるものに神が宿っている“八百万の神”という考え方が根付いていると語り、「だからこそポータルを『ハック』するという行為もすんなり理解できるのではないか」と持論を展開した。
平林氏がビジネス視点でIngressを語る上で挙げたのが、「プラス」「グラス」「アドバタイズ」の3つのキーワードだ。まず「プラス」について。Ingressではグーグルアカウントを使ってログインするため、いつどこでアクセスしたのか、またどのように移動したのかといった情報を取得できる。このログデータを使って、SNS「Google+」をより活性化したいという狙いがあると平林氏は話す。
次に「グラス」。Ingressは当初、メガネ型端末「Google Glass」に映るポータル情報を見ながら歩くといった遊び方を想定しており、平林氏はIngressを開発するGoogleの社内ベンチャーNiantic Labsの川島優志氏から、実際に試作版を使わせてもらったこともあるという。Google Glassの発売は中止となってしまったが、もしこれが実現したら歩きスマホが問題視されることもなくなるかもしれない。
そして最後に「アドバタイズ」。Ingressによって、個々のユーザーがいつどこでアクセスしたかというデータ以外にも、どの季節にどれくらいの人がいるのか、またどのタイミングで離脱したのかといったことも把握できる。こうしたデータを活用してモバイル広告の精度を上げることで収益を増やしたい考えがあるとした。
Ingressはこれらの3要素をすべて含んだゲームであり、「無料で遊べるユーザーだけでなく、作り手であるグーグルにもメリットがある」(平林氏)と語った。
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