ここまでは、技術とビジネスという視点でIngressを分析したが、エンターテインメントコンテンツとなると、2人の評価はなかなか辛口だ。まず平林氏が「もしこれがファミ通で10点満点の評価だとしたら7点」とコメント。その理由として、いまだ一部しか日本語化されていない点を挙げ、ユーザーが増えつつある日本語には早急に対応すべきだとした。
また、Ingressではレベル8まではハックやデプロイ、リンクなどの作業で比較的簡単にレベルを上げることができるが、その後はミッションを達成したり長距離を歩くなどしてメダルを手に入れなければならない。この点についても「レベル8以上にもう一階層、物語や目的をプレーヤーが自由に作れるところに価値がある。これは“メタの力”、つまりプレーヤーの力で面白くなっている。作り手(グーグル)はあえてその余地を残しているとも見えるが、裏を返せば作りが甘いとも言える」(平林氏)と指摘した。
吉岡氏は、上級者が初級者に遊び方を手ほどきしたり、レベル上げに協力したりする文化が生まれている状況は歓迎すべきとする一方で、「逆に上級者がいるせいで、初級者が入りにくくなっているオンラインゲームでよくあるパターンをものすごく早回しで行っている」とコメント。現在はユーザー数がそこまで多くないため、荒らし行為などを自制する空気があるが、もし今後一気に普及した場合には、これが損なわれてしまうのではないかと危惧した。
ただし、これまでのゲームの歴史を考えれば「3年後にはIngressだって絶対に飽きられている」と吉岡氏。これには平林氏も「真面目に予測すると1年でも十分だと思う」と同意する。先述したようにIngressは当初ウェアラブルデバイスでの利用を想定していたことから、「逆にこの寿命は早く終わってくれないと困るというのが開発者側の思惑」(平林氏)だと語った。
それを踏まえた上で、Ingressを通じて得たつながりや経験を次の施策に生かすべきと吉岡氏。また、平林氏はNiantic LabsがIngressのポータル情報をオープン化する方針であることを挙げ、これらのデータを使って数多くの位置情報ゲームが開発されることを期待した。
モデレーターを務めた岩手県庁の保氏が2人に尋ねたのが、ゲームを地域活性化にどう活用すべきかということだ。
平林氏は、ゲームを有効活用した例として高知県の教育委員会を挙げた。「生徒の理科系離れが進んでいることを受け、ゲームを通して数学の面白さや理科で学んでいることが将来こういうことに役立つと伝えている」(平林氏)。逆に“上手く使わなかった”例として紹介したのが北海道教育委員会。ゲームが学力の低下を招いているとして毎月第1・第3日用日を「ノーゲームデー」にするよう呼びかけたが、これに対してネットを中心に批判が集中した。平林氏も「ゲームにとばっちり」と切り捨てた。
また吉岡氏は「行政が絡む場合に難しいんだろうなと思うことは、(そのコンテンツが)ダメな時にダメと言えないこと。エンターテインメントの世界は基本的にいいものだけが残る」と語り、コンテンツとの距離の取り方が重要だとした。
こうした意見も踏まえ、保氏が打ち出したのがゲームで地域経済を発展させる「ゲムノミクス」。位置情報を使って、たとえば効率的に除雪をしたり、渋滞情報などもより早く得られるようになるのではないかと話した。「ゲームは頭に悪いなどネガティブに捉える人もいるが、主にそれは教育的な面でのこと。我々のような大人は、ゲームを社会でどうやってうまく使うかをもう少し考えるべき。楽しむことと社会に役立つことを両立させたい」(保氏)。
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