情報を「つなぎあわせる人」の価値が高まる--マイクロアド渡辺社長のビジョン

 アジアで事業拡大を続け、まもなくASEANのすべての国をカバーするマイクロアド。代表取締役の渡辺健太郎氏に2015年の事業戦略を聞いたところ、話はネット広告業界の未来予測にまで発展した。「情報がプラットフォームになる」という同氏の言葉の真意とは――。


マイクロアド代表取締役の渡辺健太郎氏。シンガポールオフィスにて

ASEANすべての国で拠点を開設--越境事業を本格開始

――2014年のアジアでの事業展開を振り返ってみていかがですか。

 2014年はフィリピンと韓国に新たに拠点を構え、また各拠点とも業績が伸長するなど、2013年に引き続き事業拡大の年となりました。2015年2月にはタイに拠点を開設し、また5月にはマレーシアにも構える予定です。これでいよいよASEAN諸国すべてをカバーすることになりますが、そういう意味で昨年はさらなる足がかりを築くことができました。

 ASEAN諸国を網羅することで、国境をまたいでプロモーションをしたいという顧客のニーズに応えられるようになりますが、その兆しはすでに2014年から現れ始めています。ある韓国の企業から中国市場で広告を打ちたいという問い合わせを韓国子会社にいただいており、この案件はグローバル本社の東京を通すことなく韓国子会社と中国の上海支社で対応しています。

 各国のトピックとしては、ベトナムでは2013年まで、Eコマースサイトなどダイレクトレスポンスを重視する企業の案件が多かったのですが、2014年は動画広告などリッチな広告でブランディングを行いたい企業の案件が増えてきました。案件あたりの予算規模も大きくなってきており、市場の成長を感じています。

 インドネシアではデジタルマーケティング事業もさることながら、三井物産と共同で展開しているEコマース事業の開発も順調です。現在はFacebookページで商品を紹介するに留まっていますが、計画を前倒ししてサイトでの販売も開始する予定です。Eコマースサイトの「Tokopedia」が巨額の出資を受けるなど市況も上向きで、デジタルマーケティングの需要も高まるでしょう。

 競合について。アジアのダイレクトレスポンスの領域では仏クリテオが頭ひとつ抜けた存在感があります。彼らの顧客である旅行予約サイトなどグローバルのバーティカルサイトが、アジアでもよく利用されているためです。しかし、インドなど一部の国ではドメスティックなサイトが強いため、牙城を崩すために切り込む余地は十分にあります。

――2015年はどのような年にしたいと考えていますか。

 前述のように、アジアで国境をまたいでプロモーションをしたいという企業のニーズに、より応えていきたいというのがひとつ。2014年11月に中国の検索サービス「百度」と提携し、訪日中国人旅行客を対象とした中国での広告配信事業を開始したのもこうした狙いからです。そのようなサービスを提供できる日系企業はほとんどありません。ただ、こうした方針はあくまで2014年からの積み上げで考えたものでしかありません。2015年は、少し先の未来から逆算して事業を構想したいと考えています。

 時代の変わり目を感じています。インターネットの黎明期と言われていた時代に近しい感覚です。あの頃は、インターネットはたしかに存在するけれども、それによって何がどのように変わるのか、多くの人は感じ取ることができていませんでした。同じような状況がいまもう一度、ネット業界で起こり始めています。

 という話をしても、同じ業界でさえもピンとくる人は多くありません。以前と比べて海外の先端的な情報が日本に入ってきづらくなったと感じるのですが、それも一因かと。日本と米国でネット業界の差は縮まってきたと言われていますが、私はその差はまた徐々に広がり、日本がますます時代遅れになってきているのではと危惧しています。

自分の情報と引き換えにサービスを受ける時代

――渡辺社長が考える、ネット広告業界でこれから起こることとは。

 「情報がプラットフォームになる」ということです。どういうことか。たとえば、高級車のウェブサイトを訪れた人に対して、リターゲティングで高価格帯の商品の広告を配信することは、すでに可能です。ただ、高級車のウェブサイトを訪れたからといって、本当にその人に購買力があるかどうかは分かりません。

 もしも、ウェブでの行動履歴という情報に、コンビニエンスストアなど実店舗での購買履歴の情報を組み合わせたらどうでしょうか。購入している商品とその価格などに関する情報から、ほかの人と比較して嗜好品にどの程度のお金を支払う傾向にあるかを把握することで、その人の購買力をより高い精度で推測できるでしょう。このように、平面的なデータだけでは見えてこなかった、ユーザーの姿を浮かび上がらせる多次元の情報の価値が、今後ますます高まってきます。

 情報というのはなにも、マーケティングに関するデータだけを指すのではありません。究極的な話をすれば、DNA情報も含まれます。遺伝子検査を受けると、その人が特定の病気にかかるリスクをある程度知ることができます。たとえば製薬会社などは、個人情報にあたらないような形で、その情報を入手し、広告のビッティングなどに利用したいはずです。

 逆に検査を受ける人は、対価、たとえば将来かかるおそれのある病気を予防する薬の割引、追加で料金を支払えば優先的に治療してもらえる優待のオファーなど、なにかを得るのと引き換えに、個人情報に当たらない形で情報を提供するようになるでしょう。情報にもとづく予防治療などサービスで課金することで、検査自体は無料になるかもしれません。

 DNA情報は極端な例ですし、ユーザーとしては直感的に気持ち悪いと感じてしまう人もいるでしょう。しかし、その先に未来があります。携帯電話だって、昔は持ちたくないという人がいたように状況は変わっていくかと。悪意のある情報の使われ方はもちろん防がなければなりません。その上で、社会がよくなるのであれば受け入れていくべきです。

――つまり、人間のことを一番よく知る会社になると。

 いいえ。情報を自ら集めるというよりは、さまざまなパートナーと協業して集まった情報をつなげていきます。これからは、多次元の情報を知り、それらをうまくつなぎあわせられる人や会社の価値が高まっていきます。マイクロアドは、今まで有料だったものを無料化し多くの人が使えるようにしたり、今まで考えられなかった場所・モノをメディア化したり、というようなコミュニケーションを再デザインする会社になっていきたいと思います。

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