KDDIが展開するスタートアップ企業やエンジニアを対象としたインキュベーションプログラム「KDDI∞Labo」は、現在第8期プログラムの募集を受け付けている。プログラムの3カ月間、KDDIに加えて、このプログラムを支援するパートナー企業がメンターとして参画し、アイデアの実現に向けてコンセプトの企画やサービス開発に取り組む。
では、実際にこのインキュベーションプログラムがどのように展開されるのか。第7期プログラムに参加したスタートアップ企業とメンター企業の活動の実態を伝えてきたが、今回はmeleapとテレビ朝日の取り組みを紹介する。
1月27日に開催された第7期参加チームのDemo Dayでmeleapは、特別賞「New Excitement賞」を受賞した。meleapは、Androidベースのウェアラブル端末とスマートフォン挿入型のヘッドマウントディスプレイを使って楽しめる実空間とバーチャルを融合した「HADO(ハドー)」を展開する。「HADO」とは何か、このインキュベーションプログラムではどのような活動が行われたのか、meleapのCEOである福田浩士氏とテレビ朝日の総合ビジネス局 ビジネス戦略部の森悠紀氏に話を聞いた。
--HADOとは何ですか。
福田氏:私はmeleapという会社をやっていて、ヘッドマウントディスプレイやAR(拡張現実)技術を使ってITを融合した新しいスポーツ、競技を展開していこうと考えています。ヘッドマウントディスプレイをかけると目の前の風景がARの映像と一緒に映し出されます。腕にはモーションセンサーを搭載したウェアラブル端末を装着し、自分の動きを認識できる仕組みになっています。
この仕組みによって実現できるのが、自分の腕の動きと合わせて、「かめはめ波」のような技を繰り出すことです。もともと、「かめはめ波を打ちたい」、「魔法を使いたいと」という想いが強くあったので、会社をつくったときから、どうやればかめはめ波を打てるのかということをいろいろと考えて開発をしてきました。そして、これを競技として盛り上げていこうと考え、ルールを作って3対3で競技ができるようにしました。お互いの拠点がARで表示され、それに向けて体を動かして攻撃し合い、相手の拠点を破壊できたら勝ち、という競技にしています。
体を動かして、かつチームでプレイするという点で「スポーツ」だと捉えています。ITを融合した新しいスポーツという位置づけで、ゲームとスポーツの要素を両方併せ持った新しいジャンルだと考えています。いままで体を動かして遊ぶゲームというと、KinectやWiiのようにテレビ画面の前で遊ぶようなものが多かったと思いますが、これだと場所が限定されてしまい、歩き回ったり、走り回ったりしてという要素がないと同時に、没入感もなかったともいます。そこで、実際に体を自由に動かして楽しむことにこだわりました。そして、これを実現するため、2014年1月24日にmeleapを設立しました。
--第7期のインキュベーションプログラムへ参加するきっかけは。
福田氏:以前から、さまざまなインキュベーションプログラムに応募していました。3、4つ応募したのですが、その中で一番よいプログラムだと思いました。それは、まず時期的に合っていたのです。成果を発表するDemo Dayが1月にあって、そこをゴールだと設定すると、開発も間に合いそうだったというスケジュール感です。あとは、テレビ朝日がメンターに入っていたということもあります。一緒におもしろいことができるのではないかと思ったのです。
--テレビ朝日の森さんは、どういうきっかけで参加したのですか。
森氏:テレビ朝日とKDDIは従来よりさまざまなサービスで提携しており、日々やりとりしている中で、KDDI ∞ Laboの提案をいただきました。テレビ朝日独自では、ベンチャー企業との接点はなかなか築けない面があります。KDDIの名の下にベンチャーを支援する枠組みに参加できるということが、非常に勉強になると思いました。
--テレビ朝日がメンターに加わっていることもプログラム参加の大きな理由の1つとしてましたが、参加者からメンターを選べませんね。
福田氏:選べませんが、最初の審査のプレゼンテーションの時にテレビ朝日と一緒にやっていきたいというお話はしました。
森氏:多くの応募をいただいて、その選考をする際、KDDI∞Laboの掲げる「新しいものを生み出していく」というコンセプトに則りつつ、事業シナジーを含めて、さまざまな可能性があるのではないかと思いmeleapを採択しました。
--プログラムは3カ月ですが、どういう計画をして何を目指しましたか。
福田氏:最初に森さんやKDDIのメンターと話し合い、3カ月間で何を目指すかを設定しました。1つ決めたのは、12月初旬に体験会を開催して、プロトタイプを実際に体験してもらおうということです。実際に開催でき、さまざまなフィードバックを受けられたので、開発に関しては1つのマイルストーンになりました。
--この3カ月間の感想は?
福田氏:一言で言うと、かなり濃かったと思います。毎週プレゼンテーションをしますが、そのたびにブラッシュアップしたり、いろいろな人に意見をもらったり、人脈も広がり、いままででは得られなかった多くのアセットを吸収できたと思っています。
KDDIから得られたのは、研究所のエンジニアの方から「ここはこういう技術を使ったらいいのではないか」など、いろいろなアドバイスです。さらに、僕らはオフィスを持っていないので、スペースを提供していただいたことや、さまざまな端末が利用できたというのも非常にメリットでした。テレビ朝日と企画を考えたりできたことも、このプログラムに参加しないとできなかったことだと思います。
--森さんは、HADOをどう見ていらっしゃいますか。また、メンターとして3カ月間つきあった感想はいかがですか。
森氏:「HADO」は新しい文化を作る新しいビジネスだと思うので、期待感を持っています。テレビ朝日との事業シナジーも感じており、一緒にやっていきましょうという話もしています。
この3カ月間、事業戦略を考えて行く中で、僕の経歴では 「この技術はこうしたほうがいい、こう開発した方がいい」という技術的なアドバイスができませんでした。そのため、テレビ朝日が持っているコンテンツビジネスの知見やノウハウ、人の紹介などを主にアドバイスしました。
どれだけ貢献できたかはわかりませんが、私も一緒に勉強させて頂きながら3カ月間ともに歩んできた形です。
--どんなアドバイスが印象的でしたか。
福田氏:いろいろ議論しましたが、森さんは実はわれわれがターゲットとしている層に近いと思うんです。そういった方が、「おもしろい」と本気で言ってくだされば、めちゃくちゃ心強いのです。
森氏:僕が直接的に何か、というよりは、僕が持っているあるいは会社が持っているパイプを彼につなげるといった形でした。たとえば、グループ会社でARコンテンツを制作している者を紹介して、直接的にはそこでアドバイスしてね、という座組を作りました。あとは、3カ月以降も彼らのビジネスとなり得るような企画の立案などですかね。
--ほかのチームの話を聞くと、「3カ月間の中で必ず一度は迷走した時期があった」という声も多かったのですが、2人はどうでしたか。
福田氏:そういう意味では、僕は相当迷っている部分がありました。一番大きいポイントは、ヘッドマウントディスプレイを使って、いつでもどこでも遊べるゲームを作るというのは、あまりにも非連続的過ぎる進化という見方があるのです。
現在、そもそもヘッドマウントディスプレイが普及していませんし、それを使って外で遊んだり、自由に好きな場所で遊んだりすることは恥ずかしいんじゃないかと。文化的に浸透しづらいのではないかと思ったりもするのです。それならば、段階的に緩やかな変化を生み出していったほうがいいのではないかと。たとえば、ヘッドマウントディスプレイじゃなくて、極端な話かもしれませんがスマートフォンをかざして遊ぶところから始めたほうがいいのではないかなど、いろいろな方に意見をいただいたこともあり、非常に迷いました。最終的にどうするかは自分で決めなければならないのですが……。
--森さんは、そういう想いを感じていましたか。
森氏:やはり、毎週ミーティングしていますし、3カ月で進めなければいけないことをリスト化していますから、どこが進んでいて、どこが進んでいないのかが見えます。こうした進捗状況を見て、不安になったこともあります。彼自身はまだ迷いがあるようなことを言いましたが、僕は今のサービス内容が良いと思っています。
福田氏:迷いがある、という表現は少し語弊があったかもしれません。以前までは課題が山積みで、それをどう1つ1つ解決していこうかとひたすら考えていました。--HADOはゲームなのですか、スポーツなのですか。
福田氏:スポーツの1ジャンルとして「テクノスポーツ」という名称をつけました。いままでのサッカー、野球、テニスというようなアナログのスポーツがあって、その後工業社会になりモータースポーツというのが生まれてきました。さらに現在、情報社会になって、情報技術が発達して、スマートフォンが普及する時代になり、新しいスポーツが生まれてくるのではないかと考え、それをテクノスポーツと名付けて、僕らはその開拓者になっていこうという思いなのです。そして、そこでの競技の名前がHADOなのです。
--ほかに、インキュベーションプログラムに参加してよかったと思う点はなんでしょう。
福田氏:ほかのチームの方とお互いにアドバイスしたり、人を紹介してもらったりして刺激を受け合ったのがよかったと思います。こうした交流もこのプログラムならではだと思います。
森氏:メンターとして参加しましたが、毎週ゲストの方からアドバイスや講義を受けて、非常に勉強になりました。いままで自分が関わってこなかった領域に触れられたこと、ベンチャー支援の現場に携われて、刺激を受けました。
--プログラムが終わっても、テレビ朝日と今後も一緒に進めていくわけですね。
福田氏:そうですね。いろいろな企画を考えているところですし、KDDIとも一緒にいろいろ取り組んで行きたいと思っています。「いつまで、この場所にいるんだね」と、突っ込まれるぐらいKDDIにしがみついていこうかなと思っています(笑)。
--大企業とスタートアップが連携できる場がもっとあるといいと思うのですが。
森氏:一般的によく言われることですが、一企業だけで100%全部作って事業を拡大していくのは難しいと思います。われわれの業界で言うと、日本テレビがHulu日本事業を買収しましたし、たとえば今回のようなインキュベーションプログラムを利用させていただくとか、もしくは積極的にベンチャー企業にアプローチをかけて、新たな事業をスピーディに生み出していけばいいのではないかと思います。
福田氏:相性が合えばいいんだろうと思います。勝手な意見かもしれませんが、meleapとテレビ朝日は非常に相性がよかったと思っています。
森氏:具体的にはまだ言えませんが、われわれは番組コンテンツ以外にイベントも手がけているので、今後の展開では彼らの技術をイベントで活用すべくいろいろな企画を立案しているところです。
--長期的なビジョンはいかがですか。
福田氏:まずは、さまざまなイベントを通じてHADOを体験していただきたいと思っています。そして次のステップとして、メディアとコラボレーションし、動画配信や番組化して競技人口を増やしていくという方針があります。プロ化して、既存のスポーツと同様にしていきたいのです。HADOで食べていける人が出てきて、プロリーグ化していくということです。こうしたことが横展開できれば、オリンピックのような新しい文化が創れるんじゃないかと思います。もっと新しいスポーツの祭典があるべきだと僕らは考えていますし、世界中で定期的に大きなイベントを開催して世界を沸かせたいというのが目指すところです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」