ナビゲーションサービスを提供するナビタイムジャパンは、学生時代に道路ネットワークデータにおける経路探索アルゴリズムの研究をしていた大西啓介社長と、時刻表経路探索エンジンの研究をしていた菊池新副社長が2000年に設立した会社だ。当時から、世界中の人々が安心して移動できるように、同社の持つナビゲーション技術を世界に輸出したいという展望があった。2人があえて社名の中に「ジャパン」を入れたのもそうした思いからだ。
同社は、2010年9月に英国のロンドンでサービスを開始。島国でエリアに限りがある一方で交通機関が複雑化している環境がナビサービスに適していたからだという。英国では海外向け乗換案内アプリ「NAVITIME Transit - London UK」を展開。同サービスでは、路線図や乗換案内、運行情報などを提供している。創業から10年を経て実現した海外進出はいま、成長市場と期待のかかる東南アジアで加速している。
英国以降、NAVITIME Transitが提供されているのは、シンガポール(2013年11月開始)、タイのバンコク(2014年2月)、マレーシアのクアラルンプール(同3月)、香港・マカオ(同3月)、台湾の台北(同4月)、英国のサンフランシスコ(同5月)、中国の上海(同10月)。1年足らずの期間でこれだけのエリア、そして10カ国語にサービスを対応させた。今後もアジアを中心に順次エリアを拡大する予定だ。
アプリの開発はすべて東京で行われており、現地法人は設立していない。日本で構築したアプリの基盤を各都市でも活用している。各都市でこれを繰り返すうちに効率化も進み、開発にはさほど時間はかからない。例えば、上海版は1カ月もかからずに公開に至ったという。
このアプリの特長の一つである路線図は、乗換案内サービスに適した公式のものがないエリアにおいては、自社で作成している。そうすることで、乗換案内を初めて利用するユーザーにも直感的に操作できる使い心地を実現できる。また、各国で路線の伸張や縮小、新設が行われたときにも迅速かつ柔軟に対応し、品質を維持できる。
実績は非公開だが、MAU(月あたりのアクティブユーザー)の数をKPIとして設定しており、これまでのところ台湾、タイ、シンガポールの3エリアが特に多い。アジアのMAUは4月から6倍に増加しているそうだ。
どの都市でも競合としては、「Google Map」「Moovit」などグローバル展開しているサービスがあり、それに現地の企業が続く。今後、現地のプレーヤーに対しては、日本製というカントリーブランドと、日本国内のサービスにおいて蓄積してきたノウハウを活かした機能面における優位性で勝負する。グローバルのプレーヤーに対しては、「細かくて手の届かないところ」(海外事業責任者の森氏)で差別化するという。
同氏のいう細かくて手の届かないところとは、言語対応以上の「ローカライズ」だ。例えば、英国ですでに展開している運行情報や、日本で提供している駅構内にある複数の出口に関する情報を提供することなど。こうした非常に細かい情報を常にフレッシュに保つことにおいては、ナビ専業の同社がたしかに一枚上手かもしれない。
アプリのUIを含むユーザー体験のローカライズもする。例えば、路線図ではすべての駅を等しく表示させるのではなく、その都市でハブとなる主要駅をより目立たせる。また、電車の料金が比較的高いとされるタイでは、ユーザーからアプリを通じて「料金を表示してほしい」などのフィードバックが直接届いており、こうした要望にも応えて改良を重ねていくという。
アプリは無料で提供しており、現時点ではアプリ内での広告が主な収入源。日本と同じサービスラインアップを提供するならアプリの有料化も考えられるが、あくまで今後の可能性の一つとして考えているという。
マーケティングについては、非常に重要だと考えているが予算は最小限で実施している。主に行っているのは、アプリストア内での最適化や、各エリアにいるアプリストアのデベロッパーリレーションズへの広報活動。その甲斐あってApp Storeで特集されることもあり、シンガポールのナビゲーションカテゴリのランキングでは上位をキープすることができている。
最後に、森氏がアプリを海外展開するにあたり印象的だと感じたのは、話す言葉や暮らす場所は違っても「人間の感じることは同じ」ということ。例えば、アプリのUIに複数の都市で同じような変更を加えると、どのエリアのユーザーも似たような反応を示すのだという。これからもローカルに根を下ろし、ユーザー数の拡大を目指すとしている。
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