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気球で災害時のLTE復旧を迅速に--ソフトバンクが南三陸で実証実験

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 ソフトバンクモバイルは11月6日、宮城県の南三陸町で実施している、LTE/W-CDMA対応の臨時気球無線中継システムの実証実験を報道陣に公開した。同日は、気球を用いて広いエリアをカバーする仕組みや、従来の課題を解消する新たな取り組みなどが語られた。

 災害時にいち早く携帯電話の通信インフラを復旧するため、携帯電話各社がさまざまな取り組みを実施している。中でもソフトバンクモバイルは、気球によって迅速かつ広いエリアをカバーする取り組みを進めている。同社の研究本部 本部長の藤井輝也氏によると、このシステムは東日本大震災の直後より研究が進められており、2013年3月にも愛知県で実証実験を公開している。現在は全国の主要拠点に10の気球中継システムを配備しているそうだ。


公開された係留気球無線中継システム

 係留気球無線中継システムは、基地局や衛星通信回線に接続した移動無線車(親機)から、無志向性アンテナを備えた無線中継局を搭載した気球(子機)に3.3GHz帯の周波数帯を用いて中継。親機からの電波を受信した子機が、さらに2.1GHz帯でスマートフォンなどの携帯端末に向け電波を飛ばすことで、臨時にエリアをカバーする仕組みとなっている。気球は最大で100m程度まで揚げることが可能なことから、通常の移動基地局と比べ約3.6倍のエリアをカバーできるとのことだ。

 さらに気球の動きを監視し、風の強さや雷など、天候の変化に応じて気球をコントロールする監視システムも用意されている。この監視システムは地上に設置されており、気球とWi-Fiで通信することにより、制御する仕組みになっているという。

 今回の実証実験で用いるシステムは、過去の実験で浮かび上がった課題を解消したものになると藤井氏は説明。課題の1つはLTEへの対応だ。従来の気球無線中継システムはW-CDMAのみの対応であったが、現在はLTEへの対応が不可欠だ。そこで今回は新たに、無線中継装置をLTEとW-CDMAの両方に対応させていると、研究本部 無線アクセス制御研究課 課長の太田喜元氏は話している。

  • 気球無線中継システムの概要図。移動無線車で基地局の回線を中継し、気球からスマートフォンなどに電波を飛ばす形となる

  • 気球に搭載されている無線中継装置。軽量化を徹底することで、3Kg程度の重量を実現している

  • 実証実験では、無線中継装置をW-CDMAからLTE/W-CDMA両対応のものに変更している

 以前の無線中継装置は、W-CDMAで用いる5MHz幅の周波数帯を最大で2つ、アナログフィルタを用いて切り替える形となっていた。だがLTEの場合5~20MHzと帯域幅自体が変化するため、アナログフィルタで対応すると「気球が揚がらない重さになる」(太田氏)。そこで、より小型のデジタルフィルタを用いて制御しているとのこと。現在はVoLTEを用いていないことから、W-CDMAとLTEの双方を利用する形となるが、将来的にLTEに一本化することも、この仕組みであれば可能としている。

 ちなみに対応する周波数帯は現状2.1GHz帯だが、他の周波数帯自体に対応させることは可能だという。ただし複数の周波数に対応させるとなると装置の重量が増すため、現状は単一の周波数帯での運用を考えているとのことだ。

  • 気球を着地させたところ。気球を載せるエアチューブを設けることで、自動的に着地させることも可能になったという

 2つ目の課題は、1カ月程度にわたる長期係留を実現するため、無線中継装置への自律的な電力供給と、天候に応じ気球の昇降を自動的に制御する仕組みが求められることだ。研究本部 無線応用研究科 課長の中島潤一氏によると、気球の自動制御に関しては、新たにエアチューブの土台を設けることで自動での離着陸を可能にしたほか、ウインチやバネなどにセンサを設置することで、気球の動きを離れた場所から遠隔で監視・操作できる仕組みを整えたという。

  • 気球はタブレットなどから遠隔で監視や操作することが可能

 また電力供給に関しては、従来の発動発電装置から、250Wの太陽電池パネル2枚と蓄電池を用い、太陽光を主体とした電源供給に変えることで問題をクリアしたと、太田氏は話す。この仕組みであれば、連続曇天時でも3日間は途切れなく電力供給できるとのことだが、蓄電池を増やせばより長期間供給することも可能だという。

 3つ目の課題は、搬入してから利用できるようになるまでの時間をより迅速にすること。従来の据置型のシステムでは、気球を搬入してから揚げるまで、少なくとも3人の人数と4時間程度の時間を要していた。そこで中島氏は新たに、従来より小型の気球を車両に搭載し、車両から直接気球を係留できる仕組みを整えたと説明。据置型の気球無線中継システムは、気球を制御するためのウインチを設置したり、土台を設置するため杭を打ったりする必要があったが、運搬した車両から直接係留できるようにしたことでそうした作業が不要となり、1時間半程度で利用可能になるとしている。

  • 車両格納式の気球無線中継システム。車から直接気球を揚げることで、時間を大幅に短縮できるようになったとのこと

  • 車両が左右に広がる仕組みとなっており、車上で直接気球をふくらますことができるという

  • 船舶上から気球を揚げ、海上からエリアをカバーすることで、複雑な地形の海岸でも広い範囲に電波を飛ばせるという

 そして4つ目は、海上からのエリアカバーだ。例えば三陸のようなリアス式海岸の場合、海岸が入り組んでいる上に山となっている部分も多く、地上から気球を高く揚げてもカバーできるエリアには限界があるという。そこで今回は新たに、船舶から直接気球を係留することで、海側から広いエリアのカバーを実現したと中島氏は話す。気球は船の搖動の影響を受けにくいことから、陸上用のシステムをそのまま設置できるとのことだ。

  • 実験用に用意された端末で電波を受信しているところ

 総務省からは現状、災害時の利用しか認可が下りておらず、イベントでの活用は3GやLTEではなくWi-Fiに限られるなど、活用範囲を広げるには課題もあるようだ。また気球を降ろしている時に、鳥に気球を破られるトラブルに見舞われるなど、無人で運用する上での課題もいくつか見られたという。今回の実証実験は、実験用の電波免許を得ている2015年10月30日まで続けられるとのことで、今後もさまざまな検証を進めていくとしている。

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