ジャストシステムの「ATOK」やグーグルの「Google 日本語入力」など、文字入力時の操作感や語彙数といった“ツール”としての機能を充実させた日本語入力アプリ(IME)を各社が提供する中、ユニークな独自機能で存在感を放っているのが百度(バイドゥ)の提供する「Simeji(シメジ)」だ。
Simejiは、無料で使える日本発のスマートフォン向けキーボードアプリで、豊富な顔文字やアスキーアート(AA)を揃えている。また、キーボードデザインを自由に変更できる「スキン」機能で自分好みにカスタマイズすることも可能だ。
クラウドサーバへアクセスすることで、時事ネタや流行りの顔文字などを素早く変換できる「クラウド変換」もSimejiならではの機能。便利なだけでなく、たとえば「クリスマス」と入力すると「友達でパーティーしよ?友達だけで」「サンタは今頃どこだろう」など、関連するワードを提示してくれたり、皆既月食と入力すると次の皆既月食の日付を教えてくれたりと、遊び心も兼ね備えている。
こうした独自機能が人気を博し、2008年に公開したAndroidアプリは2014年9月に1000万ダウンロードを突破。また、サードパーティのキーボード機能に対応した「iOS 8」の配信にあわせて9月18日に公開したiOSアプリは、わずか約3週間で100万ダウンロードを超えた。10月31日時点でもApp Storeのユーティリティカテゴリの無料ランキングでは1位を維持している。
Simejiの生みの親である矢野りん氏は、他の日本語入力アプリがツールとしての側面を押し出しているのに対し、「Simejiはツールとしても使えて“色物っぽい”ところが気に入ってもらえている」と語る。それでもiOSアプリの100万ダウンロードについては、「嬉しい半面、『えー』という気持ち。今はまだ面白半分でダウンロードされているのでは」と反響の大きさに驚きを隠せない。
実は矢野氏は、iOSアプリの開発期間中に産休に入っており、遠隔で指示は出していたものの直接開発には携わっていなかったのだという。矢野氏に代わって開発を先導したのが、プロダクト事業部デザイナーの河本雪野氏。中国の開発チームとともに約3カ月という短期間で完成させた。
アップルがリリース直前になってiOS 8のGM版(リリース前の最終版)を配布し、「キーボードの解放スペースが一気に増えたので、かなり切羽つまった」(河本氏)というが、急ピッチでOSアップデートに間に合わせた。当初はバグが見つかり一時的にストアでの配信を停止するなど予期せぬトラブルもあったが、現在は安定して動作しているという。
河本氏は、ATOKなど従来のIMEはPCソフトでの使い方をアプリに最適化したものだと説明。Simejiでは、顔文字やクラウド変換などコミュニケーションに特化した機能を揃えることで、「仕事以外のIMEの使い方を提案したい」と語る。またiOSユーザーから要望が多いスキンのカスタマイズにも2014年以内に対応したいとした。
ところでSimejiは、2013年12月にAndroid版で入力した情報が、無断で同社のサーバに送信されているとして問題になった。具体的にはクラウド変換において、ログセッションがOFFの場合でも一部のログデータが送信されていたというもので、同社はアプリのバグであることを認め、改善したバージョンをリリースした。その後、クラウド変換のデフォルト設定をOFFに変えている。
これについて、矢野氏はログデータが誤って送信されていたバグに対して改めて謝罪。ただし、送信していた情報は「どれくらい長い入力をした後に変換をしたか」といった、IMEの性能向上を目的にした統計情報であり、「それをバイドゥ側が会話が成立するように再構築するとか、誰が何を打っているのかを個人情報と紐付けて調査するといったことは出来ないようにしている」と説明する。また当時は「一度炎上してしまうと、こちらから弁解すればするほど怪しまれてしまうため、ひたすら謝り続けた」と振り返った。
ただ、バイドゥの“炎上事件”はこれだけではない。4月にも同社の自然言語研究員が「みんなの顔文字辞典」アプリを提供しているサーバに大量アクセスしたことが問題となり、声明を通じて釈明する事態となっている。Simejiは引き続き同社の看板サービスとなりそうだが、より長期的にユーザーを獲得するためには、それと同時に信頼を取り戻すための姿勢を見せていく必要があるだろう。
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