田原総一朗氏が聞くクラウドソーシングの今

井指啓吾 (編集部)2014年10月06日 06時30分

 10月2日に都内で開催されたスタートアップとメディアのマッチングイベント「STARTUP PRESS」で、ジャーナリストの田原総一朗氏とクラウドワークス代表取締役社長の吉田浩一郎氏による特別対談が行われた。

 「クラウドワークス」は、非対面のまま仕事のマッチングから業務の遂行、報酬の支払いまでを一括で行える、エンジニアやクリエイター向けのクラウドソーシングサービス。2012年3月に提供を開始しており、現在のユーザー数は21万人、企業数は4万社、募集総額は150億円にのぼるという。


田原総一朗氏(右)と吉田浩一郎氏

田原総一朗氏が聞くクラウドソーシングの今

田原氏:(クラウドワークスの会社説明を受けて)要するに、“ネットによる派遣”ということだ。派遣は会社に行かなきゃいけないけど、(クラウドソーシングでは)会社に行く必要がない。どこに住んでてもいいんですね。

吉田氏:はい。しかも1社だけでなく、色々な会社と契約ができる。

田原氏:あ、そうか。派遣だと1社になるんだ。

吉田氏:ですから、従来の派遣社員は立場が弱い。(一方、クラウドソーシングでは、)色々な会社と契約することで、弁護士や税理士のような働き方を誰でもできる。

田原氏:なるほど。これは大きいな。

吉田氏:これは今までの働き方とは明確に違うと思っていますね。1社との契約で2万円支払われるとしたら、10社と契約して20万円をもらうとか。そうすると安定しますね。1社の契約が終わっても、残り9社ありますから。

田原氏:で、クラウドワークス自身の売上は年間いくら?

吉田氏:ええとですね……今ちょっと微妙な時期でして(笑)。月間数億の前半です。月間数億の前半の仕事がマッチングしています。

田原氏:それはどうやって稼いでいるの? 色々な人が契約して仕事をする、その手数料を取るわけ?

吉田氏:そうですね。仕事の大きさ(金額)に応じて、手数料をいただきます。成果報酬型なので、前金を取ったり、固定費をもらったりというのはしていません。仕事が受注できたら、その10~20%程度をいただく。

田原氏:仕事はクラウドワークスが取ってくるわけだ。

吉田氏:インターネットで取ってきます。

田原氏:それはどうやって取ってくるの。営業はどうするんですか。

吉田氏:インターネットで自然に登録するというのが大半ですね。

田原氏:自然にくるわけ? 営業しなくていい?

吉田氏:そうですね。それが一つメイン。ただ大企業にはサポートを付けて営業をしています。

田原氏:クラウドワークスの営業マンは何人くらい?

吉田氏:いま全社員が28人くらいしかいないんですよ。営業は10人くらいで4万社を対応しているという状況。

田原氏:どうすんの。

吉田氏:(笑)。いや、これがインターネットの力なんですよ。


田原氏:インターネットで営業するというのは、どうやるの。たとえばトヨタに営業したい時にどうやるの。

吉田氏:いまは自分たちから電話を掛けることはまずなくて、「クラウドワーキングは面白そうだ」と問い合わせがくるんですね。

田原氏:クラウドワークスは業界では有名なんだ。

吉田氏:認知が広まっていますね。今はソニーさんにもご利用いただいています。

田原氏:どうして名が通ったの?

吉田氏:(笑)。それはですね……一つは、ウェブサイトを作っただけでは誰も来ないので、どぶ板営業を最初にしました。最初の30社は、「人が見つからなければ一切お金は掛からないので、お仕事の募集だけください」と自分で取ってきました。

田原氏:第一号はどこだったの?

吉田氏:もしかするとフジテレビさんかもしれないです。フジテレビさんの新規事業の部隊があったんですが、そこでゲームを作っているんですね。そこの発注がたぶん第一号だとおもいます。

田原氏:フジテレビが来たと。ゲームをやりたいと。それをフリーランスの人に頼むわけね。

吉田氏:そうです。それは最初、インターネットで勝手に応募とかマッチングとかしないので、自分で探して「この人はどうですか」という提案をしていました。そういったことを続けていくうちに、流行ってきた。実はリアルのお店と一緒で、お店は開店当時に友だちを呼んで行列を作るじゃないですか。あの行列の感じをインターネットで表現したという。

田原氏:最初はどうしたって売り手市場だよね。で、今やクラウドワークスは買い手市場になってきた。

吉田氏:おっしゃる通りです。

田原氏:どのくらいで、売り手市場から買い手市場になったの?

吉田氏:えっとですね……それはもう一生懸命走ってきたので、「最近」という感じですかね。2014年の春頃……年が明けてから、2カ月に1度くらいはテレビに取り上げていただいているので、そういった意味では、創業から1年半くらいですかね。


クラウドワークスのクライアント企業

田原氏:クラウドワークスに頼んでくる企業の中に外資系もありましたか。

吉田氏:もちろんあります。

田原氏:たとえばどういう会社?

吉田氏:えーとですね……。

田原氏:あんまりありすぎて思い出せない?

吉田氏:(笑)。化粧品メーカーなどですね。

田原氏:登録者の男女比はどのくらい?

吉田氏:ほとんど半々です。女性が少し多いくらいですかね。女性は主婦がすごく登録してくれています。月々2~3万円稼げるだけでも夕食のおかずを一品増やすことができると喜んでいただけるので。裾野が広いですよね。

田原氏:定年退職した人は何割になるの?

吉田氏:21万人のうちの、ちょうど2万1000人。10%くらいですね。今まで大企業の中にいて個人として働いたことがない人でも、インターネットを介すると、個人でも受注ができてしまう。

 地元の徳島に帰って現地の企業に顔を出したんですが、「個人に対して仕事を発注する人はいない」と。しかしインターネットだと、個人でも受注ができると。これは非常に新しいこと。

田原氏:これは嬉しいだろうね。今までは一企業の社員でしかなかった人に企業が発注してくると。

吉田氏:経済産業省から在宅のデザイナーが仕事を受注した時には、納品まで一度も経済産業省まで行っていない。

田原氏:具体的にどういう仕事をしたの?


吉田氏:イベントのロゴやチラシのデザインなどです。

田原氏:その人はもともとどういった仕事をしていたの?

吉田氏:会社でデザイン業務をしていました。

田原氏:あ、デザインで言えばプロなんだ。

吉田氏:ただ、個人としてはやったことがなかった。働き方の選択肢が広がるわけですね。正社員比率がもうすぐ50%を切るとされています。しかし国はまだ残り50%のインフラを未整備のままなんですよ。

 現在の「残り50%」は、風邪をひいたら仕事がもらえない状態。これに対して、教育も社会保障も何も整備されていない。その社会保障の仕組みを、将来我々は作っていきたいと思っています。

 「共済」ってあるじゃないですか。あの感覚で、20万人が1000円積み立てるだけで2億円の基金になるわけですね。だから、インターネット上に新しい街ができるんじゃないかという風に思っています。

田原氏:「50%以上」をどうするか。クラウドワークスが今やっていることは、厚生労働省は相当注目しているんじゃない?

吉田氏:おっしゃる通りです。厚労省は2部門あって、正社員を増やそうという部隊と、在宅ワークを増やそうという部隊があるので、在宅ワークの人達は応援くれています(笑)。

田原氏:では、吉田さんが厚労省の“なんとか委員”になるってこともあるの?

吉田氏:すでに講演や企画協力はしています。委員にはまだなってないんですが、厚労省から相談を受けることはあります。

田原氏:さて、この辺で吉田さんに質問がある人はいますか。

質問者:もともと技術のある方は社員じゃなくても稼げると思うんですが、何も技術がない方というのは、結局こういうものも利用できない。そういった人達を教育することは考えているのでしょうか。

田原氏:そうだ。何も技術のない人間はどうするんだ。

吉田氏:一応ですね、教育ができる会社、たとえばサンケイリビング新聞社さんと手を組んで、ライター講座をオンラインで受講できるようにしています。そのテストを通ると、サンケイリビング新聞社さんが認めたライターというバッジを付けられるんですね。それで信頼感を与えられるようにしています。

 従来、個人は履歴書しかなかった。履歴書は自称じゃないですか。それは個人を保証しないんですが、この取り組みは、サンケイリビング新聞社さんが客観的に個人を保証しているわけです。こういった仕組みを増やしています。

田原氏:教育もするんだ。でも実際、能力がない人というのはいないんだよね。つまり自分の能力を知らないだけ。教育を受ければ、能力ができるわけだ。

吉田氏:そうですね。これからの個人には、仕事だけではなくて、教育と社会保障、この3つが必要だと思っていて、うちの会社はこの3つを作ることを目指しています。

  • 同イベントにはクラウドワークスを含むスタートアップ10社が登壇

  • 田原氏と登壇者で記念撮影

  • 「説明が最もわかりやすかった」として、スペースマーケット代表取締役の重松大輔氏が“田原総一朗賞”を受賞した

 同イベントにはクラウドワークスを含むスタートアップ10社が登壇。家計簿・資産管理ツールのマネーフォワード、遊休農地の収益化サポート付市民農地を運営するアグリメディア、ニュースアプリのGunosy、人工知能によるアプリの収益化を支援するメタップス、スポットコンサル(短時間の対面や電話相談)のマッチングプラットフォームを運営するwalkntalk、電気自動車の開発と販売をするGLM、鮮魚などの発注システムを提供する八面六臂、バイラルメディア「CuRAZY」を運営するラフテック、“スペース”の貸し借りができるプラットフォームのスペースマーケットの各代表者が、田原氏の質問を受けながら、自社サービスの内容や課題を語った。

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