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電子書籍ビジネスの真相

「出版不況」再び--本・雑誌が売れないのは“活字離れ”のせい? - (page 3)

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2014年09月16日 08時00分
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「文字離れ」も起きていない証拠

 上記で永江朗さんも指摘していますが、そもそも「活字離れ」というのは、どういう意味なのか、そこからして、はっきりしないのです。

 「活版印刷」や「和文タイプ」に用いる字型が本来の意味の「活字」。しかし、この意味の活字は現在、ほぼ使われていない。だからおそらく国民の9割は「活字離れ」している。

 「文芸」「評論」などの「文字もの」という意味である(文字離れ)としても、「基準」がわからない。例えば、「何冊」が「読書離れしていない」状態で、「何冊」以下であれば「読書離れ」なのか。

 なんとかこのあたりをはっきりさせるために、「出版指標年報」のデータを使って、次のような試算を試みました。

  1. 販売部数を「総人口」と「生産年齢人口(15歳~64歳)」で割って、「一人あたり販売部数」を出す。
  2. 販売金額を「総人口」と「生産年齢人口」で割り、さらに「インフレ率」で調整する。

 1.の方式で算出した「一人あたり販売部数」は、こんな感じでした。

 これを見ると、確かに80年代末のピークと比べると、一人あたりの販売部数は落ちています。しかし、よく見ると、特に生産年齢人口については、90年代末からあまり変わっていないことがわかります。

 活字離れを「一人あたりの本の平均購入部数が減ること」と定義すれば、「ここ十数年は減っていない」ということになります。さらにいえば、書籍に関しては、

  • 1950年代~1970年代初頭は、今よりもっと「活字離れ」「文字離れ」していた。

 ということも指摘できます。

 2.については、ちょっと説明が必要かもしれません。私の目にした限り、あらゆる「出版統計」が、1950年代の「100円」と現在の「100円」を同じ価値をして扱っていますが、本当は、これは、おかしいのです。

 お金の価値は常に変動しています。「狂乱物価」と言われた1970年代には、1年で物価が2割上がるなどしました。この前後の「100円」を、同じ価値のものとして扱うのは変ですよね。

 夏目漱石が東京大学の講師を辞めたとき、それまでにもらっていた給料は年「800円」だったとのことです(青空文庫「入社の辞」参照)。

 これを見て、現在の貨幣感覚から、「うわっ、夏目さんの給料、低すぎ……?」と驚いてはいけないわけです。実質でなく名目上の金額でものを考えてしまうことを、経済学で「貨幣錯覚」と呼んだりしますが、インフレ率で調整しないと、この貨幣錯覚に騙されてしまいます。

 そのため、総務省が発表している「消費者物価指数(帰属家賃を除く総合)」という数値で、2010年基準で過去の金額を調整してみたのが以下の図です。

 一人あたりの実質金額で見ると、どうやら1973年あたりから、書籍の消費金額というのはあまり変化していないようです。

 雑誌はどうでしょうか? まず、一人あたりの冊数です。

 雑誌の場合は明らかに減っていますね。金額の方も同じような傾向です。

 でもよく見ると、書籍と同様、現在の水準は1973年頃に戻っただけとも言えます。1995年~97年頃の拡大があまりにも激しかったので、落差が目立つだけなのです。

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