他方、海賊版には一定の擁護論もあります。代表格は「海賊版には宣伝と市場開拓という効能もある」というもので、「まず試し読みして、作品のファンになってはじめて正規版だって買う気になる」などの意見です。確かに一理ありますが、これは明らかに程度問題です。例えば「海賊版が正規版と全く遜色ない品質になり、かつ誰でも無料・ワンクリックですぐ手に入れられるようになっても、正規版の販売は落ちないか」と聞かれれば、さすがにそうはいかないでしょう。
つまり、ここでは「作品の自由な流通・利用のメリット」と「創り手側が作品で収益をあげて生活の糧を得る必要」とのベストバランスが問われています。TVゲームのプレイ映像が動画サイトに次々アップされる場合、恐らくゲームの売上を高めますが、それとゲームソフトの海賊版を無制限にばらまく行為は別次元ですね。
その意味では、海賊版をある地域から駆逐するだけでは何の役にも立ちません。単に、その地域では作品が見られなくなるだけです。正規版が魅力的な価格や選択肢で提供されていなければ、意味がないのですね。現に、「ありがとう」の動画には、「そうは言うが、正規版をどうやったら買えるのか」という指摘のコメントもありました。
そのため、MAGはもうひとつのプロジェクトの柱を据えています。「Crunchyroll」、「Viz media」のような各国語の正規版サイトにユーザーを誘導する、「Manga-Anime here」というサイトです。「海賊版は創作を細らせるので見ないで欲しい。その代わり、ここに行けばマンガ・アニメを適法に楽しめるよ」ということです。正規版充実の努力で海賊版を放逐した、タイのマンガ産業の例もあります。(g-sphere2014年8月号での田中辰雄さんの紹介)
視点としては極めて正しいですが、正規版サービスの拡充はまだまだ道半ばのようです。がんばれ現場!ですね。
ネット化・デジタル化の恩恵で、地球の反対側の新たなファン達も日本のマンガやアニメを楽しめる。素晴らしいことです。だからこそ、そうしたテクノロジーを活用して作品の流通を促進しながら、同時に創り手側に正当な還元がされる仕組み(ビジネスモデル)が大切です。著作権は長らくこうした仕組みを支えてきたのですが、今は収益をあげるビジネスモデル自体が、大きく変わりつつある時代です。著作権も、時代にあわせて大幅なモデルチェンジが必要だと言う意見も強く、この辺りは最終回でお話したいと思います。
コンテンツの価格ひとつをとっても、さまざまな議論があります。きっと、正解はひとつではありません。ただ、どんな時代になったとしても、自分の愛する作品を生み出すクリエイターやそれを支える人々が、どうやって生活の糧を得ているのか。海賊版で全部済ませるユーザーだけになったら、果たして愛する作品は生まれ続けることができるのか。少なくともその想像力をなくすようでは、「ファン」はちょっと情けないですね。
海賊版を考えることは、創造の営みを考え続けることなのです。
(続きは次回)
レビューテスト(16):ネット化でコピーも流通も容易になる中で、作品の自由な流通を守りながら創り手側も正当な収益を得られる仕組みを、皆さんならどう作るでしょうか。正解は皆さんの中に!
※前回レビューテストの正解:2022年12月(末日)。実名公表した作品なので作家の死亡の翌年、つまり1973年1月1日から起算して50年後。翌年起算と聞いて、つい2023年と答えちゃった方、指を折って計算してみよう!
【第1回】著作物って何?--文章・映像・音楽・写真…まずイメージをつかもう1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。
著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全4巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。
専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。
国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku
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