さあ、ついに最終コーナーを回った「18歳からの著作権入門」連載。「こういう利用はOK」シリーズは前回で終わって、今回は「イヤそれダメだろ」の総本山・海賊版の話です。
2014年7月、YouTube上で「Thanks, friends」という動画が話題になったのをご存じでしょうか。古今の名作マンガ・アニメ42作品から、登場人物が「ありがとう」とつぶやくシーンばかりが編集されて次々登場する、ファン感涙の映像です。
さてこの動画、誰かが勝手に作った「海賊版」かと思いきやその逆で、全体が「海賊版を読まないで欲しい」と呼びかけるメッセージになっています。実は、出版社やアニメ制作会社など15社が共同で立ち上げたMAG(Manga Anime Guardian)という海賊版対策プロジェクトの一環なのですね。このプロジェクト、経済産業省やCODA(コンテンツ海外流通促進機構)という団体も協力して、現在集中的に世界中の海賊版に削除要請を継続中なのですが、対象作品はマンガ500作、アニメ80作に及ぶ大規模なもの。削除と並ぶもうひとつの柱が、紹介した普及啓蒙ビデオという訳です。
確かに、そんな大規模対策が必要になるほど、世界の海賊版の状況は凄まじいものです。2013年度の経産省の調査によれば、現在オンラインで流通するマンガ・アニメ作品はいずれも3000タイトル以上で、いわゆる「正規版」のタイトル数を上回ります。日本のファンの7~17%、米国のファンの50%以上が海賊版ユーザーであり、米国での海賊版による逸失利益(「海賊版ユーザー数×彼らが正規版に払っても良いとする額」による推計値)は1兆円を超えるとされます。まあ、これは理論値であって、全てが現実の「海賊版被害額」と言えるかは疑問もあるでしょう。とはいえ、現実に海賊版サイトはあふれかえっており、その流通が信じがたい規模であることは間違いありません。
現在、無断コピーされたマンガ・アニメ・音楽の世界での主な流通ルートは、(1)「サイバーロッカー」といわれるネット上のストレージ(倉庫)スペース、(2)動画投稿サイト、(3)ユーザー間で直接違法ファイルをやり取りしあう「torrent系」などのファイル交換ソフト、(4)ストレートにマンガなどをアップして読ませる「リーディングサイト」、などがあります。最大の海賊版リーディングサイトの場合、月間サイト訪問者数は3000万人にものぼると言われます。いずれも、引き付けられたユーザーへの広告収入や会費収入で稼ぐ形が大半です。
たとえば、海賊版サイトの代名詞と言われた「Megaupload」という会社の関係者が2012年に逮捕された際には、米国内のサーバーが1000台、それまでの推定売上が170億円、押収された現金預金と高級外車が50億円相当だったといいます。ちょっと、ファン行為の延長のような牧歌的な「シェア」のイメージとはかけ離れているのですね。
無論、どんなに荒稼ぎされてもオリジナルの作家や出版社には一銭も入りませんから、多くの作家たちは困っています。逆に言えば、海賊版はこうした創作にかかるコストを負担しないため、価格面ではいくらでも安くできるのですね。それで価格面で圧倒的優位に立ってユーザーを集めるなら、正規版の売上を害するでしょう。確かにアンフェアですし、こうした無断流通は多くの国の著作権法で犯罪とされています。
実際、先進国の多くの文化産業の売上は過去10数年にわたって、一貫して長期低落傾向が続いています。原因には諸説ありますが、デジタル化による無料コンテンツの拡大に押されたとする「デジタルシュリンク」説は有力です。デジタル化と直接競合しない、コンサートなどのライブイベント産業が逆に絶好調であることも、この意見を裏付けているようです。そんな事情もあり、出版・映像産業などの海賊版に対する危機意識は深刻です。(この辺り、拙著「『ネットの自由』vs.著作権」にも書きましたので、興味があればそちらを。)
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