この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
「旅行系のインターネットサービス市場で“航空券”“宿泊施設”に次ぐメインマーケットは“体験”だと思っている」――世界中で行われるイベントの検索サービス「EventCarnival」を8月4日に公開したカーニバルの斎藤康太CEOはこう語る。同社はイーストベンチャーズからの出資を受け、タイ・バンコクを拠点にこれまで開発を行ってきた。
同サービスは、ユーザーが開催国(現在はタイのみ)と月、規模を指定すると、その条件に合致するイベントを表示するほか、それらに関するレビューを投稿したり、閲覧したりすることができる。対応言語は英語のみで、12月には検索できる対象をアジア全域に拡げ、さらにイベントに参加する他のユーザーを見つけられるコネクション機能も実装する予定だ。
斎藤氏は大学卒業後、人材会社を創業。その後、インドで英語学校の経営再建に携わったが、よりスケールするサービスを作りたいと思うようになりカーニバルを設立。当時、「世界に年間15億人もの旅行者がいる旅行市場は巨大で、インターネットサービスのトレンドが“どの国に行くか”から“行った国でなにをするか”に移り変わっていくのを感じた」のだという。
タイを最初の拠点に選んだのも、そのマーケットの大きさからだ。MasterCardが実施した調査によれば、2014年に海外からの渡航者がアジアで最も多くなると予想される都市は同国の首都バンコク。2013年は世界でも首位だった(2014年はロンドン)。タイは「カンボジア、ラオス、ミャンマーにも近く、東南アジアを旅行する人の拠点となっている」(齋藤氏)ためだ。
齋藤氏自身も、会社を設立する直前、まだ事業のアイデアを模索していた時期にCOOの高木弘貴氏とバンコクを拠点にアジアを回っていたという。その際に、各国のイベントに関する情報が一カ所にまとまっておらず、各運営者のFacebookページなどに点在していたため、効率的に探すのに苦労した自身の経験からEventCarnivalのアイデアを着想した。
当面、収益モデルを構築しマネタイズする計画はないが、EventCarnivalが提供する情報は旅行者の意思決定に関わるため、ホテルや航空会社など広く企業と連携していけるだろうと齋藤氏は見ている。また将来的には、イベントオーガナイザーが集客するためのプラットフォームとして機能し、チケット販売手数料を受け取るような「ユーザーからの課金モデルが理想の形」(同氏)と話す。
ユーザーを獲得するための施策はオンラインで行っていく。主にソーシャルメディアやYouTubeの公式チャンネルを活用する予定だ。高木氏が一番肝になってくると話すのは「SEO」。イベントを開催国、月、規模などできちんとタグ付けするほか、10月に控える次の資金調達がうまくいけば、翻訳家やプロの写真家を雇い、さらにその精度を上げていくとしている。
今後は、2年後までに1000万ユーザーを獲得し、同年中にバイアウトによるイグジットを目指す。売却先として狙うのは、「Airbnb」などグローバルに展開している旅行系のウェブサービス。特に、航空券、宿泊施設を扱うサービスに対して、“体験”という側面から相互補完関係となるような構想を持っている。外資系サービスがアジアに参入するときに無視できない存在になれるかが鍵である。
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