“SNS大国”のタイで現地の人気ブロガーを起用--ベクトルの海外PR術

 PR会社のベクトルグループは、アジアへの進出を加速している。直近の約3年半という短い期間に上海、北京、香港、台湾、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナムの8都市に順に拠点を構えてきた。ここでは、PRとも密接な関係にあるソーシャルメディア、その“大国”ともいわれるタイでの事業展開を紹介したい。

 同グループがタイに本格的に進出したのは2014年3月。それまでも駐在員事務所という形態で事業を行ってきたが、拡大を促進するため現地法人が設立された。冒頭でも触れた通り、同グループのアジア進出は中国から始まった。そこで「日本で培ってきたノウハウが世界で通用する手応えを得て、東南アジアへの進出を強めた」と、タイ拠点のエグゼクティブディレクター瀧知浩氏は語る。


タイ拠点のエグゼクティブディレクター瀧知浩氏

 ベクトルグループは東南アジアを、経済成長や大きな人口規模を背景とした消費者市場として捉えている。中でもタイは、製造業を始めとする日系企業が古くから進出していることも手伝って親日的な性格を特に帯びており、また同グループが日本でも提供してきたウェブを活用したPRサービスへの需要が見込めることから、比較的早いタイミングでの進出先として選ばれた。

「ソーシャルメディア大国」のタイ

 Socialbakersの調べによると、首都バンコクは2012年にFacebookの利用者が約860万人と世界で最も多い都市になったこともある。JETROによれば都市の人口は約828万人であるから利用率は100%を超えている。おそらく地方から通勤してくる人も含めたそのほとんどがFacebookを利用しているということなのだろう。


2012年のFacebook利用者数 都市別のランキング(Socialbakers調べ)

 メッセンジャーアプリでは「LINE」が人気である。ニールセンの調べによると、2013年7月時点でタイで最も人気のあるスマートフォンアプリはLINEだった。国内のユーザー数は2400万人ともいわれ、バンコク市内を移動していると利用している若者が目につく。異業種の企業とのタイアップも盛んのようで、街中の看板やサイネージで流れる映像にはブラウンやムーンが頻繁に登場する。

  • 2013年7月時点のスマートフォンアプリランキング(ニールセン調べ)

  • タイで最大手の小売店 Tesco LotusとLINEのタイアップ

 こうした背景から、ウェブでの情報波及を通じた知名度の向上や販売の促進に対する企業からの需要も大きいという。ベクトルはそれに応えるべくインフルエンサーのネットワークを活用したサービスの提供を5月から開始した。タイで人気のブロガーなど、ウェブで影響力のあるユーザーを集め、企業の業種・商品・サービスに合わせた最適なキャンペーンを設計するものである。

 同社では、旅行系、IT・ガジェット系、フード系、美容・ヘルス系、ライフスタイル・エンタメ系、モータージャーナリストなど、各ジャンルで10~20名程、合計で100名程ほどのインフルエンサーとのつながりがあるという。

 例えば、ソネットが日本を訪れるタイ人向けに提供するSIMカードを宣伝する際には、フォトグラファーとして活躍し、旅行ブロガーとして人気のKANUMANさん(Facebookページのいいね!数12万人以上)をはじめとする10数名のインフルエンサーをベクトルが起用。各人に製品レビューや実際に日本で製品を使用してもらった体験談をFacebookやInstagram、Web Forumと呼ばれるいわゆる掲示板サイトで投稿してもらい、延べ100万人以上(各インフルエンサーが記事投稿したFacebook・Twitter・Instagramの累計いいね数やファン数を基に算出)のSNSユーザーへリーチ。ソネットの同製品の英語専用ページへのアクセス数も順調に伸びているようだ。

 タイのインフルエンサーには、マネジメント会社に所属する人と個人で運営している人がいる。起用にかかる費用は彼らのソーシャルメディアアカウントのフォロワー数に応じて変動し、数千のフォロワーであれば数万円、百万を超えれば数十万円が相場。ベクトルは提供するサービスの標準化と拡販を図り、今後3年で約1億円の売上を目標としている。

 瀧氏いわく、ここ数年同国において日系の会社を対象にPRサービスを提供してきた日本人事業主の事業撤退が続いていたという。その主な要因は地場の媒体やインフルエンサーとのリレーションの構築がうまく進まなかったこと。「日本の記者と比べてタイの記者は関係の構築や維持が難しく、また活字で書かれた企業のプレスリリースをきちんと読んでくれない傾向がある」(同氏)。そのため、記者会見など対面する場での細かいケアや絵素材を多く提供するなどの工夫が必要だという。

 今は日本のベクトルを通じての顧客企業との取引がほとんどだというが、徐々にタイに進出している日系企業をはじめ地場の企業からの問い合わせも増え始めているとのこと。日系のPR会社ならではの精緻な戦略と丁寧な対応を売りに、顧客をさらに獲得していく考えだ。

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