「格好良い」から「価値ある」製品へ--ものづくりに不可欠なデザインマネジメント - (page 2)

 料理の時間を短縮するためには電子レンジでの調理が便利だ。しかし、そうするとまた新たな問題が見えてくる。それは温める度にラップのゴミが出てしまうこと。日本では約10万人世帯に対して、1年間で1トンものラップがゴミとして捨てられていると言われており、環境保護の視点からみれば無視できない量だ。

  • “器を重ねてカプセル型にする”ことで温めを可能に(「OSORO」のサイトより)

 そこでOSOROでは、“器を重ねてカプセル型にする”という斬新なアイデアで、この問題の解決にも挑んだ。皿と皿の間に専用のシリコンリング「O-connector(オーコネクター)」を挟むことで立体物を温められるようにしたのだ。また、シリコンカバー「O-sealer(オーシーラー)」をかぶせれば、冷蔵庫や冷凍庫で保存して、食べる直前に電子レンジやオーブンレンジでそのまま加熱調理できる。O-sealerは高い耐熱性を備えているため鍋敷きとしても使えるそうだ。

 さらに、OSOROはすべて同じ角度やサイズ間隔でデザインすることで、大きな食器棚を置けない家庭の“収納”の悩みも解決できるようにした。なお、価格が気になっていることと思うが、最も小さなサイズであれば735円から買える。ボウル、深皿、浅皿などのタイプや、丸や四角などの形状、そしてサイズも豊富に用意されているため、自分好みの組み合わせを楽しめる。


 さまざまな特長を持つOSOROだが、最大の強みは何と言っても“陶器”であり、そのまま食卓に並べられることだ。電子レンジで温められるプラスチックの食器などもあるが、やはり陶器でできたお皿や器に料理を盛りつけた方が、見た目が美しく、味も美味しく感じるものだ。「ジップロックなどでご飯を温めてそのまま食べている人もいるが、それを美味しいと感じるかといえば絶対にそんなことはない」(田子氏)。

 しかし、陶器だからこその課題もあったと田子氏は振り返る。それは釜の温度や湿度などによって仕上がりが異なるため、1つとして同じ寸法にはできないこと。また、同社の強みであるボーンチャイナの陶器は、電子レンジや食器洗い機では使えないことだ。そこで陶器に使う土から見直すことで、寸法のズレを最小限に抑えられ、電子レンジでも使える素材や技術を開発。3年という歳月をかけて、陶器でありながら量産のシリコンリングやカバーとピタリと合わせることに成功した。

なぜ、その製品を作るのか

 田子氏は、自身の著書「デザインマネジメント」(日経BP社)で、OSOROについて「家事の負担を減らしながらも、美しいうつわで食事を楽しみたい。さらには地球環境にも貢献したい」というコンセプトを形にしたものだと説明している。そして、そのコンセプトは世界から高く評価され、シンプルでありながら数多くのデザイン賞を受賞した。

 家に食器が揃っている家庭では、すぐにOSOROに買い換えられないかもしれない。それでも製品を欲しいと思うことで、そこから気づきが生まれ、ラップの使用を控えるなど自身の生活改善につながっていく。それが、ゆくゆくは社会の課題解決にもつながるのだ。

 コンセプトを明確にし、製品のあらゆる要素に反映させていくデザインマネジメントという考え方は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)時代に突入し、ものづくりへの関心が高まっている今だからこそ重視されるべきだと私は考える。やはり“課題を解決したい”という強い思いから生まれた製品は、より多くの人々を惹きつけ愛されるからだ。「なぜ、その製品を作るのか」「その製品の価値は何か」――改めて考えてみてはいかがだろうか。


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