「格好良い」から「価値ある」製品へ--ものづくりに不可欠なデザインマネジメント

 CNET Japanの編集記者が日々の取材や暮らしの中で気になったサービスやユニークなガジェット、驚きの技術、ウェブで話題のトピックなどを、独自の視点で紹介していく新連載「編集記者のアンテナ」。第1回は、主にウェブサービスやモバイル領域を取材している藤井が担当する。

 私がいま注目しているのは「デザインマネジメント」という考え方である。その製品が、巡り巡って消費者や世の中の課題をどのように解決できるのか。その上で最終的なプロダクトはどのような形であるべきか――こうした物事の本質を捉えた上で、商品企画や製造、プロモーションにいたるまで、総合的に“デザイン”するというものだ。

  • MTDO代表取締役の田子學氏

 このデザインマネジメントの視点から、さまざまな企業の製品をデザインしてきたのが、MTDO(エムテド)代表取締役の田子學氏。東芝デザインセンターに10年以上在籍し、日本で初めて前面パネルにスリットのないエアコンをデザインした人物だ。その後、リアル・フリートへ移り、NTTドコモの“amadanaケータイ”「N705i」などを手がけた。そして、2008年にMTDOを立ち上げ、現在は幅広い産業分野でプロダクトのトータルデザインやディレクション、マネジメントなどをしている。

 意匠デザインを考える際には、まず「なぜ、その製品を作りたいのか」を明確にすべきだと田子氏は語る。ものが行き渡っている現代において、単純に「フォルムがカッコイイ」といった“見た目”だけを重視した製品は求められていないからだ。アップルやグーグル、ダイソンなども、このデザインマネジメントを実践している企業だという。

鳴海製陶のOSOROからみる「デザインマネジメント」

 では、どのようにしてデザインマネジメントを実践すればいいのか。8月1日に開催されたイベント「ものづくり2.0」で登壇した田子氏が、鳴海製陶から依頼を受けクリエイティブディレクターを務めた食器ブランド「OSORO(オソロ)」を紹介した際のエピソードが印象的だったのでご紹介したい。IT製品ではないが、デザインマネジメントを理解する上での分かりやすい事例だ。

 OSOROをひとことで表すと“調理にも使えるシンプルな器”なのだが、実は完成までに約3年という歳月をかけて生み出された、食器業界にとって革新的なプロダクトである。2012年に発売され、国内外で10ものデザイン賞を受賞した。では、なぜシンプルな器でありながらそれほど高い評価を得たのだろうか――。


筆者の自宅にある「OSORO」

  高級食器ブランドとして、百貨店などで取り扱われる洋食器やティーカップなどを製造してきた老舗メーカーの鳴海製陶は当時、百貨店市場の縮小や海外製の安価な食器メーカーの台頭などにより、売上が右肩下がりになっていた。同社には、上質であたたかみのある“白さ”を表現する陶磁器「ボーンチャイナ」を始め、創業から60年以上かけて培ってきた豊富な知見やノウハウがあったが、時代に即した製品を提供できていなかったのである。

 こうした資産を、現代の消費者の“ウォンツ(欲求)”に合わせて再構築したのがOSOROだ。同社の製品は、ホテルや家庭でゆっくりと食事を楽しみたい層をターゲットにしていたが、いまでは共働きの家庭が多く、料理の時間を十分に確保できない人も少なくない。田子氏はこの現代人の生活習慣に着目し、調理から食事、保存までを1つの器だけで可能にすることで調理時間を減らし、家族と過ごす時間を増やせるようにしたいと考えた。また、食卓に笑顔が“そろう”ことを思い描いて製品名は「OSORO(オソロ)」にした。

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