この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
人材の採用は東南アジアに進出する企業にとってもはや共通の課題といっても過言ではないが、それはタイにおいても同じである。特に、2012~13年にかけて行われた最低賃金の引き上げが、最低賃金層以外にも波及したことで割高となった採用コストを少しでもおさえたいと考える経営者は多いようだ。
そうした課題に取り組むのが、日本人起業家の越陽二郎氏率いるTalentEx。越氏はKDDI子会社のmedibaでタイ拠点の立ち上げ責任者を経て、そのまま同国で起業。タイには学生時代から縁があり、事業を通じて同国の発展に貢献したいという思いがあったという。
同社が運営する人材ウェブサービス「JobTalents」の特徴は、(1)求人情報の無料掲載と(2)成功報酬モデルである。タイには2013年まで無料掲載が可能な求人サイトはなく、また掲載したとしても必ずしも適した人材が見つからない場合も多かったという。一方、人材紹介サービスにおいては、成功報酬ではあるものの企業は給与の2~3カ月分を支払わなければならない。JobTalentsはウェブサービスで運営にかかる固定費が少ないため、企業が支払う報酬は「0.2カ月分程度」で済むのだ。
また、同サービスはFacebookやLINEと連携しており、ユーザーが求人情報をシェアできる。創業者がTalentExの個人株主でもある電子書籍アプリのOokbeeは、JobTalents上の求人情報をシェアしてくれたユーザーに電子書籍30日間読み放題クーポンを、さらにシェアしたポスト経由で実際に採用に至った場合にはiPad miniがもらえるキャンペーンを実施した。結果、5万人以上のFacebookユーザーに閲覧され、エンジニアの採用に成功した実績がある。
さらに、ミスマッチを防ぐため、スクリーニング機能も設けている。現在は国籍・年齢などで対象外の応募者をフィルタリングする機能のみだが、今後の展開としてスマートフォンで撮影した自己紹介ビデオをJobTalentsに投稿してもらい日本語・英語能力を確認、設定された質問に答えてもらうことで専門知識を確認するなどの機能を準備しているという。
JobTalentsの現在の登録者数は約1500人。登録企業数は約100社。事業を加速させるために越氏が今後取り組んでいきたいと考えるのが、これまでインターネットを使って仕事探しをしてこなかった人、もしくはできなかった人にも裾野を広げていくことだという。
そのための目玉となるのが「スマホレジュメ作成機能」。同氏いわく、タイには自分でレジュメ(履歴書)を作ることができない人が少なくないという。例えば、以前ユーザーにレジュメのアップロードを打診したところ、なぜかプロフィール画像のみであったり、たった3行だけのファイルが送られてきたりしたという。
なぜこのようなことが起きているのか。越氏がタイ人の知人から聞いた話によると、その背景には文化の違いがあるそうだ。日本では学生の頃からアルバイトの面接などでレジュメに触れる機会があり、またコンビニエンスストアで簡単に手に入れることができる。しかし、タイでは学生がアルバイトをすることは日本ほど一般的ではない。
そこで、JobTalentsのサイトアクセスの7割を占めるスマホサイトに、レジュメの作成・アップロード機能を設け、さらに魅力的なレジュメの文章を書けるようカスタマーサポートもしていく。そのために、タイの再就職支援会社で20年に渡り求職者を指導してきた女性のアドバイザー協力も取りつけたそうだ。
最後に、越氏は「タイ経済の基盤を人材領域から支えていくことで、同国における日本のプレゼンスの維持・向上にも貢献していきたい」と意気込みを語ってくれた。
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