もちろん、あまりに権限が一団体に集中すれば運営が硬直的になったり、一方的な条件がまかり通りやすくなるというマイナス面があります。そこは厳しい監視の目も必要でしょう。また、JASRACなどを介した音楽の利用には、いくつかの重要な条件や限界もありますので、注意が必要です。
(1)言うまでもなく、JASRACなどが管理しない「非レパートリー曲」やJ-WIDで「J」マークが付かないような「非管理分野」は、権利者からの個別許可がないと使えません。外国曲、インディーズ系、ゲーム音楽系などは要注意でしょうか。
(2)前回も書いた通り、彼らが利用の許可を与えられるのは歌詞・楽曲です。つまり作詞・作曲の部分です。それを誰かが歌ったり演奏した音(実演)の音源などには「著作隣接権」という別な権利が働きますから、別途利用の許可が要ります。これはしばしば、レコード会社が権利を管理しています。
(3)JASRACなどは理論上、原曲を編曲(アレンジ、オーケストレーション)する許可は出せません。もちろん現実には、カバーCDなどを出す際には多少のアレンジはおこなうケースが多いでしょう。しかし、きつめのアレンジを無許可で加えた場合など、時に作詞家・作曲家から「著作者人格権」などに関わるクレームを受けることもあります。この辺り、バランス感が重要ですね。
(4)曲のCM使用・ゲームでの使用や外国曲の映像使用(いわゆるシンクロ利用)は、「指値」といってJASRACが管理する曲でも、条件は個別交渉となっています。時に、使用料は極端に高額化することがありますので、要注意です(詳しくは福井健策編、前田哲男・谷口元著「音楽ビジネスの著作権」(CRIC)など参照)。
(5)一部外国のミュージカル曲を上演するなどの「演劇的な使用」は、「グランドライツ」といって個別の権利処理が必要になります。
音楽はしっかり集中管理されていて便利な反面、注意すべき落とし穴も少なくありません。そうした点に気を配りつつ、大いにJASRACなどの団体を活用しましょう。先人の素晴らしい音楽は、歌われ演奏されるためにそこにあるのです。
ただし、お忘れなく。第9回・第10回でご紹介した「非営利・入場無料・ノーギャラ」や「引用」の条件を満たせば、許可・支払は不要でどんな曲でも利用可能です。
今回はここまで。来週は、夏季休暇で1週お休みです。ひゃっほう!!
(続きは次回)
レビューテスト(13):音楽の著作権がJASRACに信託された後も、作詞家・作曲家自身は基本的に自作曲は自由に使える。○か×か。正解は本文中に!
【第1回】著作物って何?--文章・映像・音楽・写真…まずイメージをつかもう1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。
著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全4巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。
専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。
国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku
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