日本音楽著作権協会(JASRAC)と公正取引委員会(公取委)は11月13日、JASRACがテレビ局やラジオ局などの放送事業者と結んでいる包括許諾契約が、独占禁止法違反にあたらないとする公取委の審判を、東京高等裁判所(東京高裁)が取り消したことを受け、最高裁判所に上告したことを発表した。
公取委は2009年、放送事業者と結んでいる包括許諾契約が新規事業者の参入を妨げているとして、JASRACに対して排除措置命令を出した。この包括許諾契約は、放送事業収入の1.5%をJASRACに毎年支払うことでJASRACの管理する楽曲を自由に利用できるというもので、JASRACが管理する楽曲以外を利用する際には別途支出が求められることとなり、結果として他の音楽著作権管理事業者の参入を阻害しているというのが公取委側の指摘だった。
JASRACはこれを不服として公取委に対して審判を申し立て、全13回の審判の後、公取委は2012年6月に排除措置命令を取り消す審決を出した。
この判決を受けて、今度は著作権管理事業者のイーライセンスが公取委による審判の取り消しを求めて提訴。東京高裁は「審決の認定は実質的証拠に基づかず、その判断にも誤りがある」として、11月1日に公取委の審決を取り消す判決を言い渡していた。
JASRACの包括許諾契約をめぐる一連の動きを、弁護士はどのように見ているのか。著作権法などを専門分野とする骨董通り法律事務所の福井健策弁護士に聞いた。
放送で音楽(楽曲)を流す際には著作権者の許可がいるが、曲数は膨大で、また直前まで決まらないことも多い。そこで、我が国のプロの楽曲の大部分を管理するJASRACは、各放送局と年間契約を結び一括して楽曲の使用を許可し、代わりに包括料金を受け取る「包括徴収方式」をとっていた。今回、同じく著作権の管理事業者であるイーライセンスの主張を受け、知財高裁が「現在の包括徴収方式は他の管理事業者の参入を妨げる効果がある」と認定した。
ただ、ネット流通もそうだが、多チャンネル化の中で、放送で使用するすべての楽曲について個々の権利者ごとに使用許可を得ることは到底無理。著作権の集中管理団体がいて、包括的・画一的に権利処理できること自体は必要だ。諸外国でもこうした「包括ライセンス」方式は一般的であるし、むしろ権利の集中管理・大量処理はデジタル化社会の鍵とされる。よって、JASRACのシェアが高いことや包括契約自体を悪いもののようにみなす論調は正しくない。
問題は、その対価の徴収方式が、JASRAC管理曲の利用数を問わず年間で放送事業収入の1.5%などと決められている点の是非。イーライセンスは、これではJASRAC以外の団体の管理する楽曲を使うと、その分の使用料が追加支出となってしまうので、放送局はイーライセンスの管理する楽曲を使うことを忌避すると主張した。結果としてイーライセンスに楽曲を預けようという作詞家・作曲家は減り、「他の事業者を排除する効果」があるので独禁法違反(排除型私的独占)ということだ。
2012年の公取委の審決取消では、そこまでの効果があるとは断定できないとされたが、今回の高裁判決は、放送局がイーライセンス管理曲の利用を回避する旨の内部文書が存在したことなどを根拠に、こうした排除効果はあると認定した。もっとも、これだけで独禁法違反が決定される訳ではなく、その上で「現在の包括徴収方式が公共の利益に反するか」などの他の条件を検討する必要があるので、審議を公取委に差し戻した形だ。
他方、公取委とJASRACは、審決やり直し以前にこの「排除効果」の部分を不服として、最高裁に判断の是非を問う上告をした。よって、仮に最高裁で今の包括徴収方式に排除効果はあると認定されたとしても、それで終わりではなく、改めて審決やり直しへと進む。時間はまだかかりそうだ。
市場競争そのものは重要だがゴールではない。この問題の本当のゴールは、莫大な数の豊かな音楽が適正な価格で我々ユーザーに届けられ、正当な対価が作詞家・作曲家に還元されること。その意味で、大量の音楽著作権を包括的・画一的に権利処理できること自体は必要であると考えている。
ただし、包括契約の運用がより透明に公正になることは望ましい。よって、最高裁の今後の判断にかかわらず、現場でできる改善は行うべきだろう。具体的には、放送局の支払う総額は(1.5%なら1.5%で)固定しておいて、後は放送局が使用した楽曲を全量報告し、その割合に応じてJASRACやイーライセンスなどの間で使用料が分配される方式が望ましい。将来的には全量報告がなくても、楽曲ごとにデジタルIDが割り振られるなどして、自動的に使用量が把握・算出されるようになればより良い。
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