硬派なJASRACは、無断使用や海賊版を見つければ民事訴訟や刑事告訴にも積極的に踏み切ります。許可を与えて使用料の徴収をはじめる分野も広がっていて、ダンス教室も裁判の末に今や使用料をJASRACに払っています。フィットネスクラブも支払を開始しました。プロレスラーの入場曲がありますね。ミル・マスカラスの「スカイハイ」とか(古い!)。これもきっちり取り立てています。プロレスラーよりJASRACの方が強いのですね。
時に、ある種の強面ぶりが嫌われて(?)、ネット上では「カスラック」など厳しい言葉が飛ぶこともあります。確かにこの団体、時どき間違ったことも言います。「著作権の保護期間を大幅延長しよう」とか。また是非はともかく、独禁法関係での訴訟も続いています。
しかし、筆者は率直に言って、人が真剣に取り組んでいる仕事を「カス」と呼ぶような態度は嫌いです。それに、著作権が集中的に管理されていること自体は、決して悪いことではありません。考えてもみて下さい。さまざまな作品の分野の中で「今から30分以内にこの作品をネット配信する許可を取ってきて」と言われて、仮にも出来るのは音楽(楽曲)くらいです。ちょっと実際にやってみましょう。
筆者が近所のオヤジ仲間と、アカペラで甲斐バンドの「HERO(ヒーローになる時、それは今)」を歌って、それをネットで公開したくなったとします。こういう時は、JASRACのホームページに行って「J-WID」というデータベースを開き、曲名を入力します。すると誰が曲の権利者か、誰がこれまでカバーで歌ってきたかが一目でわかります(図)。
これまで、嘉門達夫さんや宝塚歌劇団(!)などがカバーしてきたようですね。中段右側に(J)というマークが並んでいるのがわかりますか?これが、JASRACがこの曲について管理している利用形態です。「配信」という利用もJASRAC管理ですので、JASRACの手続で、こうした曲を自分で歌ったり、ボカロに歌わせてネット配信できることがわかります。
次に、実際の利用許可をとってみましょう。個人が全くの趣味で無料配信するなら、JASRACの使用料規定からは、1曲あたり月額150円の使用料がかかることがわかります。そこで、オンラインで申請します。JASRACのオンライン窓口「J-Takt」にアクセスして、住所・氏名や作品コード、使用法・使用期間などを入力し、自動作成される申込書に押印して発送すれば完了です(図・サンプル)。
この間約10分。「それがどうした?」と思われたかもしれませんが、少なくとも他のジャンルのコンテンツと比べればこれはかなりすごいことです。例えば、同じ「HERO」でも、キムタク主演のTVドラマ「HERO」の1シーンを、筆者が事務所のHPで動画配信しようとなるとこうはいきません。恐らく1カ月かけようが許可じたいが出ないでしょう。
それ以前に、今やニコニコ動画などの動画サイトはJASRACと包括契約を交わしており、だから皆さんも「歌ってみた」を投稿できるんだ、という話は前回しましたね。ですから、アカペラで甲斐バンド「HERO」を歌ってYouTubeやニコ動に上げるならば、手続や支払じたいが要らないのです。
過去の大量の作品をネットの新ビジネスで活用しようとすれば、個別に権利者を探し出して条件交渉をして、ネット配信の許可を取るというのはなかなか困難な作業です。数万・数十万アイテムでは到底不可能でしょう。しかし、JASRACのような集中管理団体があれば、可能です。こうしたことから、デジタル立国のためには他ジャンルでも「書籍版JASRAC」「映像版JASRAC」が必要だ、とする議論もあります。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス