どんな場合なら、著作権者の許可なく作品を使っても良いのか?今回はネットや学校生活で、実はもっともトラブル多発の「引用」から学びましょう。
引用とは、人の作品を自分の作品に引いてきて紹介することです。エッセイやレポートで、良くカッコなどでくくって既存の作品や論文の一節を記載しますね。あれが典型的な引用です。文章に限らず、映画や舞台の中で誰かの小説の一節を引用することもあれば、評論の中で既存の絵画や楽譜などを引用することもあります。企業のプレゼンで、政府や他の企業の発表を紹介するのもある種の引用です。引用は私たちの教育・文化・ビジネスなどの営みでは最も重要な行為のひとつで、それ無しでは社会は成り立たないほどでしょう。ただし、実は著作権のトラブルもとっても多い分野です。
2013年から、全ての博士論文のネット公開が義務付けられました。とても意義ある試みですが、ここでにわかに脚光を浴びたのが「その“引用”はOKなの?」ということです。ネットに上がれば既存の文章との照合もしやすいですね。いわゆるコピペが発見されやすくなり、検証サイトが立ち上がったりします。話題の小保方晴子さんも、そうした場所で博士論文のコピペ問題を指摘されたことから騒動が広がりました。確かに、論文の中には出所も示さず、引用というよりは単なる盗作と区別がつかないものもあり、そうなると恰好の炎上ネタです。いやですね、炎上。
こうした不祥事を警戒して、教員や学生に「引用は一切禁止!」「引用するなら全部許可をとりなさい」などと、極端な指導をはじめる大学も出てくるかもしれません。……馬鹿げています。許可は言う程簡単に取れるものではないし、適正な引用は著作権法が認めるれっきとした適法行為です。相手側に「挨拶」を入れるのは結構でしょうが、「許可」は本来必要ありません。許可が取れない限り引用するなでは、辛口の批評などは出来なくなり、学問・芸術・報道にとって命取りになりかねません。是非、引用のルールを守って、使いこなして欲しいと思います。
とはいえ、実は著作権法の引用の規定は抽象的で、条文を読んでも何が許される引用なのかさっぱりわかりません。「公正な慣行に合致し」「引用の目的上正当な範囲内なら良い」なんて書いてあるのです。(がっかりしますね。何が正当な引用か知りたくて条文を見たら、「正当な範囲内なら良い」です。)
そこで裁判所や学説は色々な引用ルールを打ち立てますが、これまた意見に幅があります。そのため、一番日常的におこなう「引用」という行為なのに、残念ながら一目瞭然のルールをここに書くことはできません。が、それでも判例や学説から読み取れる「引用の6つの注意点」をご紹介しましょう。これに気を付ければ、恐らく大きく間違えることはないはずです。
その前に「ルール・ゼロ」です。言うまでもなく、著作物にあたらないような短い部分ならば、著作権的には無条件に使えます(第2回・第3回参照)。そうではなくもう少し長い固まり、つまり「創作的な表現」を自分の作品で引用したい時には、次の6つの要素に気をつけましょう。
(1)公表作品であること。未公表作品は、引用できません。たとえば手紙は著作物ですが、基本的に未公表作品です。手紙を受け取った人はつい、自分のものだと考えがちですが、あれは書いた人が著作権を持っています。そして書いた人の同意が無いと公表できないのですね。ですから、受け取った手紙を自分の著書で紹介したりすると、引用の規定では無理です。
(2)明瞭区別。引いてくる人の作品と、いわば地である自分の作品は混ざってはいけません。たとえば文章ならばカッコでくくる、段を下げる、といった区別が必要です。ですから、当たり前ですが誰かの作品の一部をまるで自分が創作したかのように「流用」するのは、引用ではありません。単なる盗作です。この関連で、映像・音楽・ダンスなどの分野で人の作品を部分的に真似する行為を「○○からの引用」と呼ぶことがあります。いちがいに否定できない表現ですが、少なくとも引用の条文で許されるのは難しそうです。こうした人の作品へのオマージュ、パロディ、二次創作的な利用は著作権の大きな課題で、別な回でじっくり扱います。
(3)主従関係。引いてくる他人の作品はいわば補足であって、地である自分の作品がメインでなければなりません。「わかった!じゃあ人の作品が4割、自分の作品が6割ね!」と、そういう訳にはいきません。引用として許されるためには、もっと圧倒的な差が必要なのですね。どの程度なら安全という絶対の基準はありませんが、量でいえば筆者は「人の作品からの引用はせいぜい全体の数%にとどめ、加えて他の要素にも注意」と依頼者に勧めます。しかも、一箇所で長文を引用したり、図版なら大きい鮮明なものの引用は要注意です。よく「その部分だけで鑑賞に向くような引用は危険」と言います。つまり、美術評論で既存の絵画を引用することは出来ますが、図版部分が大きくて、結局評論ではなく解説付き作品集のようになってしまっては危ないのですね。
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