夏――!!と浮かれていたら、あっという間に梅雨前線の進撃を受けてしまいましたが、皆さんお元気でしょうか。筆者はとりあえず、前回「踊れる」と嘘を書いてしまった「NO MORE 映画泥棒」の振付を練習中です。
さて「18歳からの著作権入門」第5回、雨にも負けず、まずは前回の続きからです。
「著作権は何に対してノーと言える権利か」。11個のうちの残りふたつ、もっとも刺激的で厄介な「翻案」と「二次的著作物」を片付けてしまいましょう。
これは重要な権利です。「私の作品を無断で翻訳するな」はわかりますね。では、「私の作品を無断で翻案するな」とは、どんな意味でしょうか。人の作品を真似して、似た作品を作ることを言います。つまり、「パクるな」と言える権利ですね。模倣を禁止できるところが、善かれ悪しかれ著作権の非常に強いところなのです。
さて、この翻案ですが、典型例はどんな行為でしょうか。言うまでもなく「盗作」です。「剽窃」とも言いますね。つまり人の作品を真似して似た作品を作り、それを自分名義で公表してしまうことです。よく盗作論争などが報道されていますが、あれはつまり翻案権侵害があったか無いかの論争なのです。
このように盗作が翻案の典型例ですが、もうひとつ、盗作とは決して呼びませんが翻案にあたる行為があります。何だかおわかりですか。「原作もの」です。つまり、人の作品を原作として新しい作品を創る行為、あれも翻案なのです。たとえば、戦前の国民的作家に吉川英治さんという方がいますが、彼の代表作が「宮本武蔵」で、これを原作に井上雄彦さんが描いた大人気漫画が「バガボンド」ですね。ちゃんと「原作・宮本武蔵より」とコミックスに書いてあります。
実は吉川さんの著作権は2013年に切れたのですが、バガボンドの執筆開始時にはまだ著作権がありましたので、当然、吉川さんの遺族の許可を得て漫画は描かれています。これが翻案です。その仲間には、楽曲のアレンジ(編曲)などもあります。
こうして翻案や編曲によって作られた新たな作品のことを「二次的著作物」と言います。盗作のように無断の翻案で作られたものでも、二次的著作物は二次的著作物です。
さて、この二次的著作物であるバガボンドですが、著作権は誰が持つのでしょうか。当然、漫画家である井上さんや彼の会社ですね。では、この「バガボンド」を更にアニメ化したくなったとしましょう。つまり、もう一度翻案しようという訳です。
許可が必要ですが、誰の許可を取るべきでしょうか。当然、漫画の著作権者である井上さんです。でも、それだけでは駄目なのです。もうひとり、原作者である吉川英治の遺族の許可も必要です。なぜか。バガボンドには吉川さんの作りだしたストーリーやエピソード、つまり彼の創作性も乗っているからです。
これが、表の最後にある、「二次的著作物の利用権」です。つまり、原作者は自分の作品に基づく二次的著作物の利用に対してもノーと言えるのです。逆にいえば、二次的著作物を利用したいと思ったら、原作者の許可も必要なのですね。では、井上さんと原作者側の意見が割れたらどうしましょうか。それぞれがノーと言える権利を持っているため、使えません。
いかがでしょうか。現代はTVドラマでも映画でも、大変原作ものの多い時代です。二次的著作物のそのまた二次的著作物が創られるのも珍しくありません。つまり、ひとつの作品にたくさんの権利が乗っていることが多い時代なのです。その場合、ひとりでも反対すると作品は利用できなくなり、死蔵されます。現代は、そうした許可を取ること(=権利処理)が難しい時代でもあるのです。
さて、ここまで主に「著作物とはどんな情報で、どんな権利が働くか」を見てきました。権利は登録などの手続は不要で、ほぼ全世界で自動的に守られます。では、その権利は、いったい誰が持つのでしょうか。答えは「著作者」です。著作者とは、クリエイター(創作者)のことを言います。たいていは生身の個人です。こうしたクリエイターが著作権を持つのが、大々原則です。
では、「共同著作」や「集団創作」ならばどうか。著作権は著作者全員の共有になります。著作権が共有の場合には、作品は全員の同意がないと基本的に使えません。たとえばバンドで、曲はメンバー全員の共作名義(あるいはバンド名義)になっているケースがありますね。あの場合には曲の著作権は共有になって、全員の同意がないと使えないのが原則です。
ここでひとつ気をつけたいのが、バンドは、ずっと仲良くやって行くのが理想ですけれど、何年もたつとやはり解散することもありますね。その時に、JASRACのような団体が曲をまとめて管理していれば問題は少ないのですが、そうでない場合、全員の同意がないと、もう演奏も録音も出来ない訳です。場合によっては過去のレコーディングを収めたCDも、増刷できずに廃盤にせざるを得ないこともあります。
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