「ニコニコ超会議3」閉幕から5日後となる5月2日、ドワンゴとニワンゴが「ニコニ立体」という新サービスを開始した。ユーザーが投稿した3Dモデルをブラウザ上でUnity(ゲーム開発環境)を使って再生し、回転させたりモーションをかけたりして眺められるもので、ニコニコ動画でお馴染みの3DCGムービー製作ツール「MMD(MikuMikuDance)」のモデルにも対応している。
実はこのサービス、当時“新卒”だったエンジニアが、社内研修カリキュラムで制作した作品を元に立ち上がっている。企画書にGOサインを出したプラットフォーム事業本部長の伴龍一郎氏は「他サービスとの兼ね合いもありサービスの規模感は調整したが、中身には口を出していない」と語る。現在はそのエンジニア本人である喜田一成氏をリーダーとし、喜田氏を含む入社2年目3人、内定者アルバイト1人の平均年齢24歳という若いチームでニコニ立体を運営している。
なお、気になる人もいるであろう、ニコニ立体が「ニコニコ立体」でない理由については、「当初のサービス名は『ニコニコ立体』の予定だったが、(ドワンゴの)川上量生会長の一声により急きょ変更になった」とのこと。「コを抜いたほうが発音しづらくて印象に残るからじゃないかな」と笑う伴氏。今回の取材で詳しいことは聞けなかったが、その表情からは、なにかほかにも理由があるように感じられた。
サービスの現状と今後の展望について、伴氏と喜田氏に聞いた。
もともと個人的に3Dのゲームなどを作っていたという喜田氏。ニコニ立体の基となるアイデアは、知り合いの3Dモデル制作者(モデラー)から「作品を公開できる場所があまりない」「(3Dモデル自体の認知度が低く)プラットフォームがあっても見てもらえる機会が少ない」といった悩みを聞いていたことから思いついた。
初音ミクなど「VOCALOID(ボーカロイド)」のPVでも活用され、niconicoユーザーには馴染みのあるMMDだが、楽曲や“歌い手”に比べると、モデラーが注目を浴びる機会は確かに少ない。ニコニ立体が目指すのは、そういった3Dモデラーに活躍の場を提供し、モデル作品の面白さをniconicoユーザーに伝えることだ。
ニコニ立体は現在、試験運用という位置づけになっている。利用者数は非公開だが、喜田氏によると「ニコニコ静画の10分の1以下」。ただし、運営側が当初予想していた数よりも3倍近いユーザーが集まっているという。
投稿作品数は、サービス開始からの1カ月半で約1400件。数字だけを見ればあまり盛り上がっていないようにも思えるが、「作品(モデル)制作にかかる時間を考えれば健闘しているほう」(伴氏)という。「イラストと同じく、3Dモデルも手の入れ方は無限大。フィギュア原型のレベルまで完成度を上げるなら3カ月以上かかることもある」(喜田氏)。
他の3Dモデル投稿サービスに比べ、ニコニ立体は“女の子”をモチーフにした作品が多い。まれに規約に反する作品が紛れ込むが、運営側が厳しくチェックし、内容によっては削除している。削除対象となる作品は、テクスチャデータ(3Dモデルに貼り付けている画像)に乳首や性器の書き込みがあるもので、これは服の中に隠れていて見えない場合も含む。
「モデラーはこだわりの強い人が多いので、作品の完成度を上げるために細かい部分まで作り込んでしまう。削除対象にならないよう、ルールには気をつけてほしい」(伴氏)。
ニコニ立体ではユーザーからの要望に応じ、投稿可能なモデルデータのファイル形式を積極的に拡張している。5月にはMMDのPMXファイル(すでに対応していたPMDの上位規格)の利用許諾を受けられるようPMX形式の発案者である「極北P」さん(の代理である「かんな」さん)に相談していた。それと同時期、モデルファイルの暗号化と利用規約の著作権に関する内容にユーザーが不利になる内容があるとして一部のユーザーの間で話題となり、極北Pさんより5月28日、商用利用に関する項目を含めた公開質問が提出された。
なお、モデルファイルの暗号化については、ニコニ立体に投稿したデータが、許可なく他ユーザーに抜き取られる恐れがあること。利用規約の著作権に関する内容については、「ユーザーの投稿作品を運営が商用利用できる」と解釈できるような文言があることだった。
これを受け運営側は6月13日、公開質問への回答をサービス公式ブログに掲載。極北Pさんが質問の提出時に「運営が質問事項に対して誠実な回答を行い、全てのユーザーに提示することをもって、ニコニ立体でのPMXの利用許諾とする」としていたため、これで許諾を得るかたちになった。PMXファイルは6月16日にサービスに対応した。
利用規約について伴氏は、ニコニ立体の規約はniconico全体のものと基本的には同じ内容とし、「“投稿コンテンツの権利は各投稿者のもの”を一貫しているniconicoにおいて、運営がユーザーの作品を無断で使うことはあり得ない」と話す。
「『運営に作品を勝手に使われた』という経験のあるniconicoユーザーはいないはず。ニコニ立体でも、イベントなどの商業活動でモデルデータを使いたい場合には、当然、個別に連絡して許可を得る」(伴氏)。なお過去にニコニコ動画への投稿動画を映像作品として販売した際には、動画の投稿者とそれぞれ契約書を結び、ロイヤリティも支払ったという。
一方、モデルファイルや暗号化に関しては、安全性と快適性の両立を最優先している。現状ではサービスの閲覧に差し支えのない範囲で、モデル表示時のキャッシュなどに独自の暗号化処理を施しており、テクスチャデータは暗号化していない。
複雑な暗号化を施すには、多くの時間とマシンパワーが必要となる。喜田氏によると、テクスチャデータの暗号化も一度試みたが、投稿に要する時間が大幅に増えることや、メモリの消費量が多くなることでサービスの快適性が損なわれるため対応を見送ったという。
「テクスチャデータは、モデルデータ本体とセットになって機能する。モデルデータは1つのファイルだけではなくて複数のファイルやフォルダから構成されているが、ニコニ立体に投稿された時点でそのファイル構造は分解される。そこでテクスチャデータだけを抜き取っても意味がない。ユーザーには安心して利用してもらいたい」(喜田氏)。
ニコニ立体は、サービスとしての明確なゴールはまだ見えていない。収益化は短期的には取り組まず、広告などはしばらく設置しないという。
今後の取り組みとして、3Dモデル作品のコンテストを予定している。開催時期は未定で、現在は協力企業と内容について交渉しているという。また、3Dプリンタとの連携について「現在の技術ではまだ問題があるが、可能性を感じる」(伴氏)と、運営チーム内で検討しているそうだ。
「自分の手で仕上げた、魂のこもった3Dモデル作品をニコニ立体に投稿してほしい」と喜田氏は思いを語る。引き続き、喜田氏を中心とした若いチームがサービスに磨きをかけていく。
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