「2014年度で構造改革をやり切る。先送りはしない」――5月22日に開催された2014年度経営方針説明会でソニーの代表執行役社長 兼 CEOの平井一夫氏はこう繰り返した。ソニーでは、2014年3月期の通期決算で当期純損失1284億円の赤字を計上。2015年3月期の連結業績予想も500億円の赤字見通しとなっており、多くの事業で構造改革が迫られている。
中でも“本業”とされるエレクトロニクス事業は厳しい状況だ。1284億円の損失にはPC事業の収束に伴う費用が多く含まれており、黒字転換を掲げたテレビ事業も、損失額こそ2013年3月期の696億円から257億円へと縮小したものの、目指していた黒字化は未達となった。
経営方針説明会では、PC事業の収束、テレビ事業の分社化という、2つの事業構造改革から説明がされた。PC事業は7月1日に新会社「VAIO株式会社」に引き継がれ、テレビ事業は子会社「ソニービジュアルプロダクツ株式会社」へと事業を移管する。
平井氏は「VAIOは我々にとって様々なチャレンジを行なってきた重要なブランド。しかしここ2年間の大幅な赤字と急激な市場変化を踏まえ、厳しい判断だったが収束することを決断した」と2月の発表時を振り返る。子会社化されるテレビ事業については「外部環境の変化に迅速に対応できる変革がし切れていなかった」と黒字化未達となった原因を分析した上で「新会社では継続性、一貫性のあるコスト改善と4Kを含む高付加価値戦略をスピーディに取り組むことで、黒字化達成は可能だと見込んでいる。販売台数減少のリスクがあっても、現在のマネジメントならば、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応する力が備わっている」と自信を見せた。
加えて「本社間接の費用30%削減」「販売会社の費用20%削減」という2つの構造改革も掲げる。これらの構造改革費用は2013~2014年度で3000億円以上。「大きな費用を使うが構造改革効果は2015年度以降に年間1000億円以上のコスト削減をもたらす」と説明した。
一方、エンタテインメント、金融事業は好調だ。映画「アメイジング・スパイダーマン2」は、劇場興行成績6億4000万ドルを突破し、テレビ番組制作も2013年に米国で7本のテレビ番組シリーズを制作。音楽事業についてはダウンロード配信サービスの伸びが米国で鈍化する中、サブスクリション型のサービスが新たな収入源になりつつある。
生保や損保、銀行の3本柱で展開する金融事業でも「生命保険にライフプランナーという新しい考え方を投入したことに代表されるように、商品の差異化が難しい金融業界において、顧客視点に立ったイノベーションを提供できた。ソニーがやっている意義がある」と特徴ある事業内容を紹介した。そして、2013年度に参入した介護事業を4本目の柱として展開すべく、その基盤を確立できたとしている。ただ「エンタテインメント、金融は好調だが、本業のエレキが……」と評されることについては「どれもがソニーとって重要で、どれもが本業だと考えている」との考えを示した。
そのほか、2014年度の注力事業における重点施策に挙げられたのはゲーム&ネットワークサービス、モバイル、イメージング関連。ゲーム&ネットワークサービスは、4月6日時点で累計700万台の実売を達成した「PlayStation 4」(PS4)の普及率を伸ばす一方、ネットワークサービスを強化する。「PlayStation Plus」「Sony Entertainment Network」に加えて、クラウドサービス「PlayStation Now」のオープンベータサービスを米国にて2014年夏に開始し、液晶テレビ「BRAVIA」などにも展開していくという。
平井氏は「これまで『PS2』が最も成功したプラットフォームだった。しかしPS4はソフト、ハードのサービスを一体化することで、これまで以上の利益を生むプラットフォームに育つ可能性がある」とハードウェアとネットワークサービスをともに展開することで生み出される新たな可能性について語った。
一方モバイルについては「最も大事なのは事業環境の急激な変化に対応すること。需要の落ち込みリスクへの対処」と慎重な姿勢を見せる。「Xperiaは普及価格帯モデルをラインアップするとともに、日本、欧州に加えて米国市場での強化に取り組む。厳しい市場だが、通信事業者との連携を強化することで、ソニーの存在感を増すことはできると考えている」と市場戦略を語る。また「小型スピーカやヘッドホンなど周辺機器事業はスマートフォンビジネスの裾野を拡大させ、事業の安定化を図る軸になる」とアクセサリ市場にも言及した。スマートウェアについても「ソニーならではの商品展開をしたい。商品を拡充していく」と積極展開していく姿勢を見せた。
CMOS、画像処理エンジン、レンズと三位一体での商品開発を推進するイメージング関連は、セット、デバイス双方での事業拡大を推進していくこと、プロ用機器は4Kカメラを中核に据え、ソリューションビジネスへと移行することで事業成長を図る。コンシューマ向けモデルに関してはデジタル一眼と高付加価値コンパクトカメラに注力することで市場変化に強い収益性を確保する。この上で「レンズスタイルカメラ、アクションカムといった斬新な商品を投入していく」とした。
ソニーでは、商品以外にデバイスについても注力している。なかでも裏面照射型、積層型に取り組むCMOSセンサは、ISO40万を超える超高感度や超高速撮影を実現し、デジタルカメラに新たな価値を提供している。もう1つ注力デバイスとして紹介されたバッテリは「ウォークマン」や「ハンディカム」で培ったスタミナ技術をいかし、ウェアラブル端末などへの展開を考えているという。これらのデバイスは新規事業の創出にも欠かせない。
「社長就任以来、各国のソニーグループを訪れ、社員の持つ新商品、新事業創造への熱意を実感した。チャレンジの場を与えることで、2013年度はレンズスタイルカメラやミュージックビデオレコーダーなど、ソニーらしいと評される商品を市場に導入できた。専門組織を立ち上げ、新規事業創出と人材育成を強化していく」と新規事業に強い意欲を見せる。
説明を終了する間際、平井氏は「エレクトロニクス事業の構造改革をやり切る」と再度コメント。「創業以来受け継がれている自由闊達な社風、ソニースピリッツはいつまでも受け継がれるべきだが、変化を恐れてはいけない。この構造改革をやりきったときにお客様に感動を届けられるソニーの新しい道が開けると確信している」と決意を新たにした。こうした取り組みを実施し「2015年度には連結営業利益で4000億円レベルは目指せると考えている」という。
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