国内外のテクノロジ界のイノベーターを集めたカンファレンス「新経済サミット2014」が、4月9日から2日間の日程で開催された。4月10日のトークセッションでは、「中東と欧州における破壊的なイノベーション~なぜネット企業は中東やヨーロッパのスタートアップ大国の技術を求めるのか。日・米・アジア以外のスタートアップ大国の最新動向とは?」と題したセッションが行われた。
セッションスピーカーとしてVertex Venture Capitalマネージングパートナーのデイビット・ヘラー氏、Viber CEOのタルモン・マルコ氏、Rovio Entertainment マイティイーグルのピーター・ヴェスターバッカ氏、英国貿易投資総省ベンチャーキャピタルアドバイザーのクリス・ウェイド氏、モデレーターに東洋経済新報社「東洋経済オンライン」編集長の佐々木紀彦氏が登壇した。
モデレーターの佐々木氏は、Global entrepreneurship development index 2014を引用しながら、世界のアントレプレナーシップランキングのスコアを表示した。スコアによると、日本が36位に対して、登壇したパネリストの国々であるフィンランド(8位)、英国(10位)、イスラエル(21位)は上位となっており、日本以上の起業大国になっていると指摘。それらを踏まえた上で、小国ながらイノベーティブなスタートアップを生み出している要因について、それぞれの登壇者が語った。
デイビット氏が運営するVertex Venture Capitalは、1997年に設立して以来108社に投資し、そのうち30社以上がIPOやM&Aを果たした実績を持つイスラエルを代表する大手ベンチャーキャピタルだ。イスラエル企業とアジアとのネットワークを持ち、出資者には日本企業も多く名を連ねているという。直近では、モバイルナビゲーションアプリのWazeに投資し、2013年にGoogleが11億ドルで買収したという事例がある。
「人口800万程度の国では資源もなく、イノベーションなしには生きていけない。小国でもあるため、始めからグローバルを視野にいれたサービス設計だ。人口一人あたりのVC投資金額は世界一であり、起業家教育に最も力を入れている」(デイビット氏)。
多くのグローバル企業がR&D施設をイスラエルに設置し、イスラエルの研究者を巻き込んだりイスラエルの企業を買収したりしながら最先端の研究を推し進めるなど、イスラエルがグローバルにおける優秀な人材輩出の貴重な地域になっている。「90年代後半、政府が積極的にファンド設立を促したことがきっかけとなった。いまでは民間主導でイノベーションを生み出している」とデイビット氏は語る。
2010年にリリースした無料通話・メッセージアプリ「Viber」は、現在では3億人以上のユーザー数となっている。日本国内でも、最も利用されている無料通話サービス・アプリとして、LINEやSkypeに次ぐ第3位となっている。2014年2月には、楽天がViberを運営するViber Mediaを9億ドルで買収し、子会社化している。ベラルーシで始めたViberは、優秀なエンジニアが集まるイスラエルにも拠点を置きながら事業を展開しているという。
「無料通話からテキストメッセージだけでなく、今後は写真やロケーションをベースとした事業を展開していく。小さな国から始めたサービスが、ミャンマーを始めとした東南アジアでも数百万人に使われるほどのグローバルサービスとなった。グローバルな人材を集めることで、世界に対してリーチできる」(マルコ氏)。
2009年にリリースした「Angry Birds」は、累計ダウンロード数が20億回を超える大ヒットゲームだ。Rovio Entertainmentは、Angry Birdsが作り上げたブランドやストーリー、キャラクターを外の世界に持ち出すブランド拡大路線で事業を広げており、ビデオ、映画、おもちゃなどのコンシューマ製品を手がけている。
「従来の広告宣伝を使わず、キャラやブランドの力で広めてきた。初めはゲームの会社だったが、今では3つのE(Entrepreneurship、Education、Entertainment)を軸とした事業を行っている」(ピーター氏)。
事業の一つとして、フィンランド最大のテックカンファレンス「Slush」の開催に関わっている。2008年に300人規模で始まった同カンファレンスは、現在では6000人を超える投資家やスタートアップ、メディアが集まる一大イベントとして成長した。
「2007年当時、大学生に向けて講義をした時に起業したいと思う学生はほとんどいなかった。もっと学生たちが起業家を憧れる存在にしようと考えたのがSlushを始めるきっかけで、スタートアップによるスタートアップのためのカンファレンスだ。今では大学生のクラスの半数以上が起業家を志望するまでになった。フィンランドというグローバルの田舎から、グローバルで成功する企業の形をもっと示していきたい」(ピーター氏)。
ピーター氏は、日本や米国のような大国においては、ローカライズに力を入れて事業を大きく成長させることは可能だが、フィンランドなどの小国ではローカルにおける市場規模が小さいため、始めからグローバルを視野に入れなければならないと語る。
「大国は、ローカルを中心に考えても成功しやすい。Facebookが、始まりは大学という小さなコミュニティからスタートし、それがグローバルに広がったのがまさにそうだ。小国出身のスタートアップは、グローバルは当然といった意識が根底にある。国ごとの文化を認識することは大切」(ピーター氏)。
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