アジアで存在感を高めるマイクロアド(前編)--ベトナムで顧客獲得までの軌跡と展望

 アドプラットフォーム事業大手のマイクロアドがアジア展開を加速している。筆者はベトナムとフィリピンの各拠点を取材してきたので、前後編に分けてその様子をお伝えする。

 インターネット広告市場の成長が著しいベトナムで、マイクロアドが躍進している。2012年11月に会社を設立し、ディスプレイ広告の一元管理プラットフォーム「MicroAd BLADE」を国内の広告主に向けて提供。これまでに200社の顧客を獲得してきた。ベトナムでの1年あまりの事業、そしてこれからの展望について、MicroAd Vietnam代表取締役の十河宏輔氏に話を聞いた。

本当に“ゼロ”からのスタート

 今となっては業界を問わず、さまざまな顧客が同社の製品を利用しているが、事業開始当時は大変苦労したと十河氏は振り返る。DSP(デマンドサイドプラットフォーム)という概念が、現地の広告業界に広まっておらず、マイクロアド以外、国内にオフィスを構えている競合企業もいなかった。電話でアポイントも取れないため、飛び込み営業で開拓していったそうだ。

  • MicroAd Vietnam代表取締役の十河宏輔氏

 十河氏の苦労は、実は事業開始前から始まっていた。ベトナムで広告関連の事業を行う場合、現地企業とのジョイントベンチャーを設立しなければならない。つまり、会社を設立するパートナーを探すところから始まったのだ。現在のパートナーであるベトナム最大級のアドネットワークを運営するAmbient Digitalも、十河氏が飛び込みで口説いた会社だ。

 十河氏の言葉を借りれば、「最初は本当に何もなかった」状態から一変したのは、ベトナムでナンバーワンのEコマースサイト「Lazada」がMicroAd BLADEを導入した頃。国内のネット利用者3300万人のうち、600万人が利用するといわれるこのサイトで、同社が配信するリターゲティング広告が多く露出するようになってから顧客が増えていったという。

 Lazadaに提案したのは、ベトナムで一番有名なEコマース企業がMicroAd BLADEを利用すれば、2番手、3番手の企業も開拓できるはずだという考えからである。結果的にベトナムのEコマーストップ10企業のほとんどに製品を利用されることになった。

  • 「MicroAd BLADE」

 Eコマースサイトに続いて、不動産や銀行、保険、スパなど、顧客獲得の手段としてネット広告を多く活用する業界に絞ってアプローチ。直取引での顧客が増えたタイミングで、その実績を携え、広告代理店を通じていわゆるナショナルクライアントと呼ばれる大手の企業にも販売するように切り替えた。これが躍進の第二波となったという。

 ベトナムで顧客を獲得する上で、鍵となるのは「リレーション」だそうだ。特に大きな企業は具体的なKPI(成果を図るための指標)を持っていないため、製品のパフォーマンスを気にすることは少ない。つまり、どんなに良いプロダクトを持っていても売れないということがあり得るのだ。逆に、友人からはモノを買いやすいため、顧客企業のキーマンを抑えることが重要だそうだ。

優秀な社員は責任も給料もすぐに引き上げる

 そのためにも、十河氏は採用や社員の教育に力を入れた。日本人感覚からするとベトナムの若者の転職率は高い。優秀な社員の流出を防ぎ、さらにスキルアップを図るためにも、おそれずに権限を委譲し、給料もすぐに引き上げる。同国では新卒社員の月の平均給与がおよそ300ドルだというが、同社には20代で800ドル~1200ドルの社員もおり、半年で倍になるケースもあるという。

  • MicroAd Vietnamのウェブサイト

 その結果、若くて優秀な社員が集まっている。十河氏など経営幹部を交えた会議でも鋭い改善案を積極的に提案し、週末の夜にも関わらずメールで議論をしあう。将来は起業したい、いつかは海外で仕事をしたいという夢をもち貪欲に働いている社員も少なくないそうだ。十河氏も「僕もまだ若い(26歳)けれど、この会社にはそれだけチャンスがある」と伝えているという。

 さらに、現地の企業が来期の広告予算を組む時期(1月)にあわせて、広報活動も実施。地元のテレビ番組やニュースサイトにも出演し、BtoB企業にも関わらずかなり知名度が高まっているそうだ。これが、営業や採用活動、問い合わせの増加にもつながっているという。

 2014年は新たにスマートフォン向けの広告や、動画広告を配信するための新製品の提供を開始した。十河氏は、こうした新展開を踏まえ「翌月の売上が当月の倍になることもありうるような状況。目標を前倒しで達成し、圧倒的に成長率を上げていきたい。2014年中に売上規模でディスプレイ広告会社の圧倒的な一番になりたい」と意気込んだ。

 後編では、先日法人を設立したばかりのフィリピンでの事業展開についてお伝えする。

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