KDDIは3月28日、LTE-Advancedと、今後の割り当てが予定されている3.5GHz帯の周波数帯を活用した次世代ネットワークの実現に向けた取り組みを、栃木県の小山ネットワークセンターで披露した。
KDDIの常勤顧問である渡辺文夫氏によると、同社のスマートフォン契約数は現在1500万に上っており、モバイルデータのトラフィックも、2011年度から2016年度の間に、16倍まで増大すると予測している。だがスマートフォンによるトラフィック増大の本質は、そうしたマクロ的な視点からは見えてこないという。
渡辺氏は東京都心部のトラフィック推移を例として上げ、人が集まる特定の時間と場所に、局所的に、しかもゲリラ的にトラフィックが急増することが大きな問題になっていると説明。こうした局所的なトラフィックには、新しい通信方式や帯域幅の拡大だけでは対応できないことから、新たな技術が必要になるとしている。
さらに渡辺氏は、3.5GHz帯の特性と活用方法についても触れた。3.5GHz帯は“プラチナバンド”と呼ばれる800MHz帯より周波数帯域幅を多く獲得できると見込んでおり、従来より高速な通信サービスが実現できる。一方で、周波数が高いため直進性が強く、道を曲がったり、一本挟んだ道路に移動したりすると、とたんに電波が届きにくくなってしまう特性がある。
しかし、そうした性質が必ずしも弱点になる訳ではないという。3.5GHz帯の遠くに飛びにくい特性は、プラチナバンドと比べ基地局同士の干渉を小さくできることから、近接した範囲に基地局を設置しても高速な通信速度を維持できるメリットがある。それゆえ3.5GHz帯を小セル化に用いれば、局所的に基地局を増やしやすくなり、容量を増大できることから、局所的なトラフィックの対処に大いに役立つと渡辺氏は説明する。
こうした特性を持つ3.5GHzを、渡辺氏は800MHz帯のプラチナバンドになぞらえ“ダイヤモンドバンド”と呼んだ。その上で、KDDIではプラチナバンドによるエリアのカバーと、ダイヤモンドバンドによる局所的なトラフィックへの対応を組み合わせる形で、品質の高いネットワークを提供したいとしている。
ただし、3.5GHz帯による小セル化は容易ではないと、KDDIの標準化推進室 副室長である松永彰氏は話す。中でも問題となるのが、セル半径が狭いためにハンドオーバーの頻度が増え、その都度ネットワークが瞬間的に切れてしまうことだ。そこでKDDIでは、「C/U分離技術」を導入することで、この問題に対処するとしている。
C/U分離技術とは、ウェブの情報などユーザーが実際にやり取りしている“ユーザーデータ”と、ネットワークへの接続処理をする“制御信号”という、基地局とやり取りする2つの情報を同時にハンドオーバーするのではなく、瞬断に大きく影響する制御信号は広範囲をカバーするマクロセルに、影響が小さいユーザーデータは小セルに、送り元を分離する技術だ。
分離によってハンドオーバーするのはユーザーデータのみとなることから、移動時の瞬断の影響を減らせるという。公開された実験環境では、小セル間でハンドオーバーしやすい場所でも、C/U分離技術を用いることで、安定して通信できることを確認できた。
ちなみにC/U分離技術に用いているのは、LTE-Advancedの要素技術であるキャリアアグリゲーションに近く、制御信号とユーザーデータに異なる周波数を割り当てることで実現しているという。C/U分離技術は3GPPで標準化が進められており、9月に仕様が完成する予定とのことだ。
この他にも会場では、アンテナの数を増やすことで通信速度と容量を向上させる技術「Massive MIMO」の効果を検証するため、電波の強さを写真などで“見える化”するツール、そして3.5GHz帯のLTE-AdvancedとH.265/HVCコーデックと独自の高画質化技術により、約12Mbpsで4K動画を伝送する実証実験なども公開された。
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