この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
2013年11月に発生した台風30号によりフィリピンは甚大な被害を受けた。台風が直撃したレイテ島のタクロバン市を中心に、死者6000人、負傷者2万8000人、行方不明者1700人、被災者数1600万人以上と言われている。さらに、114万戸余りの家屋が倒壊などの被害を受け、インフラや農業・漁業などへの被害総額は366億ペソ以上(約854億円)に上っている。
フィリピンは台風が多い国である。台風は積乱雲が多く集まることで発生するが、同国の東方や南シナ海は海面水温が26~28℃と発生しやすい条件を満たしている。それでも2013年は特に台風が多く、1994年以来19年振りに年間30個を越えた。台風30号は発生した際の勢力を維持したまま同国の方角へ進行し、10メートルを超える高潮をともなって上陸したのだ。
フィリピンのIT企業Voyager Innovationsが2013年12月に公開した「RaincheckPH」は、雨などの自然災害に備えるために必要な、気象に関する情報を提供するスマートフォンアプリ。こうしたコンセプトを持つアプリを現地企業が開発するのは同社が初めてだそうだ。現在はAndroid OSにのみ対応している。
RaincheckPHは、同国の科学技術省が主導する災害予測プロジェクト「NOAH」と連携して開発が行われており、国内700カ所に設置された測定用センサーの情報に基づいて情報を配信している。提供される情報は、天気、気温、降水確率、降水量、風速、今後4日間の天気予報などだ。
Senior ManagerのJett Angeles氏によると、情報の精度は95%と非常に高い。「GoogleやYahooなどグローバル企業よりも、私たちローカル企業の方がその国の歴史について知っている。より正確な情報を提供できる」(同氏)という。カバーする範囲については、国内70の都市、さらに7000以上と言われる島々のほとんどを網羅。4km×4km=16km四方の単位で区切られた地区それぞれについて、異なる情報を届けている。
アプリ開発で苦労したのは、政府が持つ数多くの情報の中から必要なものを定義・抽出し、理解しやすい形で提供するためのインターフェースの設計だったという。NOAHで公開されていた既存のウェブサイトは、情報量や操作性において、まさに「サイエンティストがサイエンティストのために作ったようなサイト」(Customer InsightsのRaymund Villanueva氏)だったのだそうだ。
さらに、ユーザーによりアクティブにアプリを利用してもらうために、ちょっとした遊び心も取り入れている。情報はTwitterやFacebookで画像付きでシェアすることが可能だが、その画像に天気に対する自分の感情(嬉しい、心配など)を表すステッカーを付けることができる。「天気情報はこれまでboring(退屈)なものだったので、それを変えたかった」(Jett氏)。
今後は、予測情報をユーザーにいち早く届けるためのアラート機能の強化に注力する。現時点では、自分が今いる場所で次の数時間に降水確率が50%に達した場合、ポップアップで通知が届くようになっている。それを、フィリピンでよく利用されているSMSやメールにも対応させることで、必ずしもアプリのアクティブユーザーでなくても情報を受け取れるようにするという。
さらに、iOSやフィーチャーフォンへの対応も進め、将来的にはローカルメディアと連携して学校や職場の休校・休業情報なども提供していく。クラウドソーシング機能により、ユーザーからの情報を統合することも計画している。Jett氏はユーザー数100万人を目指すとしており「自然災害に対して予め対策をするという文化を作り上げたい」と語った。
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