スペインのバルセロナで開催された通信業界最大のイベント「Mobile World Congress 2014」の初日なる2月24日、メッセージアプリ「WhatsApp」の共同創業者 兼 CEOであるJan Koum氏が基調講演を行った。
子どもの頃にウクライナから米国に移住したKoum氏は、祖国の親戚と連絡を取り合うことに苦労した体験、ある学生からもらった電子メールなど、コミュニケーションを求める「人」の話を中心にWhatsAppのミッションについて語った。また、米国時間2月19日に発表されたFacebookによる買収についても言及した。
Koum氏はステージに立つと「今日は特別な日だ」と切り出した。5年前となる2009年の2月24日、Koum氏らはサンフランシスコでWhatsAppの登記をしたのだ。「当時、製品もなく、もちろんユーザーもなく、売上げもゼロ。だがビジョンがあった」と氏は振り返る。そして「何かとてもクールで、人々を結びつけるものを作りたかった」と続けた。
ゼロからスタートしたWhatsAppは大ヒットし、欧米のモバイルメッセージサービス分野では大きなブームとなった。現在のユーザー数は4億5000万人、このうち3億3000万人が毎日利用し、スマートフォンの先にいる相手とやりとりしているという。開発にあたっては、いかに“簡単に使える”かにこだわった。
Koum氏が自らの取り組みに“ミッション”を感じたのは、ある出来事がきっかけだという。WhatsAppの公開前に仲間内だけで利用していたとき、交換留学でオーストラリアに滞在中の女子学生からメールが届いた。そこには「家族から遠く離れて、ひとりぼっちで友達がいない。寂しくてたまらないけど、家族と電話したりメッセージを送るのはとてもお金がかかる。そのサービスを使わせてくれないか」と書いてあったそうだ。
「とても胸を打つメールだった」とKoum氏は振り返る。そして、この学生に誰にも見せないことを条件にダウンロード先のリンクを送ったという。「このとき、実感した。人々が世界のどこにいても、簡単に、容易に、安価にやりとりできるようにする、というミッションが我々にはあるのだと」(Koum氏)。おそらく移民である自身のバックグラウンドも大きく影響しているだろう。そのような出来事を経てKoum氏らはWhatsAppを完成させ、2009年後半に公開した。サービスはあっという間に拡大し、多くの人にとっての必需品になった。そして2月中旬、米Facebookに総額190億ドルで売却することになった。
この日はWhatsAppの音声通話サービスが発表された。Koum氏は家に電話がなく、遠方に住む友達や親戚に電話をするためには人に借りなければならなかったウクライナでの幼少時代について触れ、電話は「貴重な共有リソースだった」と振り返る。
しかし、これからはスマートフォンとデータ通信、WhatsAppがあれば、いつでもどこでも、安価に簡単に家族や友人の声が聞けるようになる。テキストと違って、リアルタイムに相手の声が聞こえることで距離がぐっと縮まるだろう。音声通話サービスはKoum氏の個人的な願いでもあったようだ。
音声通話サービスの提供は第2四半期の予定。まずはiOSとAndroid、次いでWindows Phone、BlackBerryと拡大していくという。「これまで確立したシンプルさ、容易さ、手頃な価格のバリューを音声に拡大する」(Koum氏)。
もう1つの発表が、ドイツの通信事業者E-Plusとの提携だ。E-Plusは今後、WhatsAppブランドのモバイルサービスを展開する予定という。メッセージに加えて音声通話を提供するWhatsAppは、通信事業者からすると競合となるOTT(Over The Top)プレーヤーだが、対立より協業の意志を示した形だ。
「目標は、あらゆる人にWhatsAppを使ってもらうこと」――アメリカンドリームを実現させたKoum氏は言う。当面の課題は、収益よりもユーザー数の拡大のようだ。
また、スピーチ後には質問に答える形でFacebookとの取引についても語った。Facebookとは「人々を結びつけるという点でビジョンが一致した」とKoum氏。買収後も「計画に変更はない」と述べ、Facebookの中で独立した事業として運営していくことを強調した。今後も、人々をコネクトするというミッションに基づくWhatsAppの事業計画を実行していくという。
同日には、Facebookの共同創業者 兼 CEOであるMark Zuckerberg氏も講演し、バブルともいわれるWhatsAppの買収金額190億ドルについて「WhatsAppそのものに、その金額の価値はあると思う」と見解を示した。「WhatsAppはFacebookとベストフィット」とZuckerberg氏は述べ、10億人に利用されるサービスへ成長する可能性がある数少ない企業だと高く評価した。
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