この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。
今回は世界各国に散らばるコワーキングスペース「HUB」のシンガポール版「HUB Singapore」に入居する企業の中から、同スペースの運営者が推薦する企業を取り上げる。
読者の方、もしくはその家族、特に高齢の方の中には、フィーチャーフォンを使っているけれど、そろそろスマートフォンに買い替えたいと考えている人もいるだろう。また、一般的なスマートフォンだと操作や設定が難しいため、誰でも簡単に使いこなせる、いわゆる「らくらくスマートフォン」のような端末を検討している人もいるはずだ。
そうした場合、新たにスマートフォン端末を購入することになるわけだが、当然数万円のコストがかかってしまう。ソーシャルグッドなプロダクトを生みだし続けるシンガポールのNewton Circusが作った無料のiOSアプリ「Silverline」を使えば、このコストを浮かせることができるかもしれない。
Silverlineは、高齢者に最適化された画面や情報を表示してくれる「ホームアプリ」だ。高齢者が頻繁に使うであろう機能のみを抽出し、さらに高齢者の求める体験に沿ったユーザーインターフェースに改良されている。同社では、「使わなくなったiPhoneにこのアプリをインストールして、そのまま自分の親などに引き継ぐ」といった使い方を想定しているという。そのため、SIMカードを差し替えなければ子どもが使っていた電話番号をそのまま引き継ぐことになる。また、SIMカードを差し替えれば高齢者自身の電話番号で利用できるという。
Silverlineに集約された機能は主に8つだ。まず「カメラ」は、撮影と保存だけに機能が絞られている。動画の録画やパノラマ撮影など高度な機能は省かれている。さらに見て分かる通り、ボタンの数は最小限、色やマークは決してクールとは言えないが、そのボタンを押せば何が起こるのか、おそらく初心者でも理解できるだろう。
続いて「電話」。この機能でできるのは、連絡先の追加、編集、コールだが、変わっているのはコール先の選択の仕方だ。グリッドマークのボタンをタップすると、連絡先に登録された人の写真が一覧化される。これなら直感的に相手を探すことができる。この他、「アラーム」を設定する機能もある。
「カメラ」「電話」「アラーム」は、通常のiPhoneの機能と大きく代わり映えしないが、ここからがユニークだ。「お薬」機能は、iPhoneのリマインダーのような機能を使って、常用する薬の時間を知らせてくれる。ただのリマインダー機能ならそんな使い方を思いつかないかもしれないが、お薬機能として設置することで高齢の方も使いこなせるのだろう。
「学習」機能では、日替わりで写真、Podcast、動画のコンテンツが提供される。繰り返し視聴したいものはブックマークをしておくこともできる。「健康」機能は10時、14時、18時の1日3回、そのときの健康状態を記録するための質問が送られてくる。“お水を何杯飲みましたか?”“運動しましたか?”などの質問にYESかNOで答えると、毎日の記録をグラフにして表示してくれる。
「場所」機能は、今の自分の居場所を、連絡先に登録している特定の人にSMSで知らせる機能だ。たしかに地図アプリを起動して自分が今いる住所を特定して、それをコピーして誰かに送信するのはなかなか難しい作業だ。また送迎時など急いで居場所を知らせたい場面ではとても重宝されそうだ。
「緊急」機能は、警察や救急車、その他の緊急連絡先に電話をかける機能だ。ワンタップで電話をかけることができ、またいざという時のために自分のプロフィールを登録しておくこともできる。
Silverlineは、高齢者の生活向上とその家族の家計、プロダクトのリサイクルという3つに貢献することが評価され、世界最大のクリエイティブコンペティション「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」などで表彰されるなど高い評価を受けている。
日本と同様に高齢化が進行し、またスマートフォン利用者が急増している東南アジア地域で、Silverlineに対する需要は今後ますます高まるだろう。アプリは、英語、中国語、日本語、オランダ語、スペイン語、ポルトガル語、マレー語、スウェーデン語に対応しており、2013年内にはAndroid版もローンチ予定。ユーザー数が増えれば、他の国へのローカライズも検討したいという。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス