志を持った人間が起業し、またそれに共感した企業が彼らに出資する--国内スタートアップのエコシステムは、この1年でも大きく拡大したように見える。その1つの動きが、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、つまり事業会社によるベンチャーキャピタル(VC)や投資部門の創出だ。テレビ局や新聞社といったメディア企業も投資に積極的な姿勢を見せる。
NTT ドコモ・ベンチャーズとKLab Venturesは11月29日、「NTTドコモ・ベンチャーズオープンイベント メディアVCカンファレンス」を開催。朝日新聞社(朝日新聞)、東京放送ホールディングス(TBS)、日本テレビ放送網(日本テレビ)が登壇。メディア企業がスタートアップへの投資することになった経緯やその投資方針、考え得るシナジーなどが語られた。
イベントで登壇したのは、朝日新聞社メディアラボ主査の鵜飼誠氏、東京放送ホールディングス次世代ビジネス企画室長兼投資戦略部長、TBSイノベーション・パートナーズLLC代表の仲尾雅至氏、日本テレビ放送網社長室企画部の安藤天志氏。NTTドコモ・ベンチャーズの安元淳氏、KLab Ventures代表取締役社長の長野泰和氏がモデレータを務める中各社のプレゼンテーションとパネルディスカッションが繰り広げられた。
まず始めに、各社がスタートアップ投資を手掛けた経緯について。TBSの仲尾氏は、かつてTBSグループと大企業との提携案件にも携わったことがある人物。だが同社には、そういった“事業”をやってきた社員は少ないという。
しかし、メディア企業もこれからは新規事業を立ち上げることが必要不可欠であると説く。TBSイノベーション・パートナーズのミッションも「新規事業創出」。自分たちでできることの限界を知り、そこからさらなる成長のために各社と協業していきたいという。「テレビという“マス”へ伝えられるものは簡単にリプレイスされにくい。だからこそ、媒体価値をさらに高めるためにもいろんな知恵を出しあって活性化していきたい。おもしろい人物や技術を持ったベンチャーと何かできないか考えている」(仲尾氏)
日本テレビの社員の多くも、既存番組を盛り上げることはできるが新規事業を生みだすことが苦手だと安藤氏は語る。だからこそ、新しいことに挑戦し、他分野との協業のチャンスを見出す1つの方法として、スタートアップに期待を寄せているという。2015年までに総額500億円の投資枠を設定し、戦略的投資を進めて既存事業領域の強化や拡大、そして新規事業やコンテンツ含めた事業との連携、グループ会社のリソース活用を進めていきたいと語る。
朝日新聞の鵜飼氏は、同氏が所属するメディア・ラボについて、新規事業開拓向けの独立部門だと説明する。縮小しつつある新聞業界で新しい一手を打つためにベンチャーとパートナーを組みたいと語る。「伝統的なメディアの形をゼロから見直し、これまで培った経験をもとに“熱中体験”を生み出し、当たり前を変えていく存在になりたい」(鵜飼氏)
では彼らとベンチャーには、どういった協業の形があるのか。仲尾氏は「セカンドスクリーンなど、テレビをもっと楽しくする方法。またそれ以外に、デジタル部門として広告や宣伝の新しい可能性を見出したい」と語る。イベントやショッピングなどの新しいソリューションを通じた広告セールスとの提携などを考えたいという。
安藤氏は「売上に貢献するか、コスト削減に貢献するか」の2点だと語る。日本テレビが作る商品や番組、グッズ、イベントなどに新しい世界観を持ち込み、中長期的な視点で顧客に新しい価値を提供できるベンチャーを期待するという。「短期ではなく、あくでも中長期的な視点で大きなシナリオが描けるかどうか。それを知りたい。魅力が感じられれば、協業や投資などさまざまな選択肢を用意する。株式に日本テレビが入ることで信頼を獲得でき、結果としてベンチャーが成長してくれることが一番だ」(安藤氏)
鵜飼氏も、短期ではなく中長期的な視点で考えていきたいという。その上で「最後は人と人との付き合い。良いコミュニティを持つベンチャーとつながっていきたい」と語る。良い関係性を築く方法の中で、投資や協業といったものが選択肢としてあるだけであり、その先にはベンチャーとの付き合いを通じて朝日新聞自体をより良い方向へと変化させていきたいという思いがある。
では、実際にどのようなスタートアップと協業したいのか。仲尾氏は「まずはソーシャルメディアなどのデジタル関連、もしくはコンテンツ事業に関わるもの」が良いという。動画や放送だけでなく、TBSグループ全体のメディアやコンテンツに関わるものを期待するという。
「キーワードは社会的意義と豊かな時間を作ること」と語る安藤氏は、日本テレビのミッションをスタートアップと一緒に実現したいと語る。テレビを見ていない時間にもすばらしい体験を提供するビジネスや、教育や文化、芸術、そしてそれ以外にも、社会的意義のあるさまざまなジャンルでの可能性を考慮したいという。「まだ何ができるか分からない。だからこそ、スタートアップから『こんなことやっている』『こんなことできる』という提案が欲しい。その提案を受けて何ができるかを私たちなりに解釈していきたい」(安藤氏)
可処分時間のシェア競争という視点について、テレビも新聞も同様だと鵜飼氏は語る。その上で、既存メディアを変える何かを作れる人たちや、感情に訴えるようなコミュニケーションが作れるものに期待したいという。ウェブ上のデジタルコンテンツや紙面上での情報を加工する技術など、さまざまな可能性が考えられるという。「『今までにないものを作る』という“意義ある一歩”を踏み込む人たちと一緒になって考えるパートナーでありたい」(鵜飼氏)
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