朝日新聞、日本テレビ、TBS--メディアがスタートアップと組む理由 - (page 2)

協業に何を求めるか

 では、メディア企業とスタートアップとの協業にはどんな課題や問題があるのか。鵜飼氏は、新聞の資産がそもそも知られていないことが問題だと語る。「新聞というパッケージ化され、最適化されたリソースの中で、具体的に何ができるのか。私たち自身も分からないでいる。データベース活用やAPI公開などで情報を開示していく可能性もある中、何ができるかを一緒に考えてもらいたい」(鵜飼氏)。また投資は重要なコミットメントを示すものであり、責任を持って成し遂げるという自社内での宣言でもあるという。「グループ会社や事業部毎にさまざまな人材がいるため、スピード感を持って意欲のある人材を引きあわせることができる」(鵜飼氏)

 とはいえメディア・ラボは立ち上がったばかりの部署。実績はこれからだが、機動力を高めて協業を積極的に図り、社内としての実績を積んでいく。そうすれば、そこからさらに新しい可能性も開かれていると語った。

 安藤氏は、「すぐに投資」という発想よりも「知り合うフェーズ」に重きを置くという。おもしろいスタートアップがいれば、まずはグループ会社とともに「連携して何ができるか」を考えていくという。「投資をするまでは大変だが、投資をしたら社外取締役として自社の人間を入れさせてもらい、テレビ産業との接点を通じて業界の流通網やノウハウなどを提供していきたい。ほかにも、権利関係やコンテンツまわりなどメディアならではのアドバイスはできる」(安藤氏)

 また、ベンチャーのエグジット(出口)戦略として、M&Aの受け皿となる可能性もあると安藤氏は語る。「現状でテレビコンテンツが9割の売上を上げているが、テレビが倒れるシナリオも考慮する。グループで考えた差異の可能性も意識しながら投資や協業を図っていきたい」(安藤氏)

 仲尾氏は、現時点ではまだ投資案件こそないものの、接点を持ったスタートアップを社内に紹介するといった施策を実施していると語る。イベント企画や映像配信、営業やショッピングなどのさまざまな分野での連携の可能性があるという。「スタートしたばかりのCVC。まずはさまざまなスタートアップと交流していくことが目的だ。投資も協業もマストではないかもしれないが、今後迅速に進めていきたい」(仲尾氏)

ともにメディア事業を盛り上げる存在に

 広がりを見せるスタートアップのエコシステムについて、メディアはどういった役割を果たせるかという質問に対して、仲尾氏は「映画やドラマなど、これまでは旧業界とのコラボが多かったが、これからは新しい業界とのコラボも推進していかないといけない。『テレビ=番組』という意識だけではなく、一緒に事業を盛り上げていきたい」と語る。

 「メディアは、起業家でもなければメンターでもない。だからこそ、メディアはエンジェル投資的な存在として、グループ会社の特殊な業界の導線を持っているつなぐ力に意味があると考えている」と、安藤氏は語る。また、スタートアップのエコシステムにおいて、「イグジット先としての役割も果たせるのでは」と語る。またメディアとの連携について、「テレビ番組で紹介されることだけを目的にはしてはいけない」と釘を差した。

 鵜飼氏は「大きな投資があるわけではないが、イグジットまでの道のりを俯瞰(ふかん)して見られる存在になれるのではないか。スタートアップを支援し、見守っていく存在して、社会に対して価値観やライフスタイルの提示ができるのではないかと考えている」と語る。

 ここまでポジティブな話が続いた一方で、オンラインサービスを手掛けるスタートアップが、既存メディアと利益相反する関係になる可能性がないわけではない。これに対して仲尾氏は、「ベンチャーを敵対視していない。デジタルメディアが今後もっと伸びる可能性も大きく、こうした社会の大きな動きを止めることはできない。テレビと相反関係であっても価値があれば協業の可能性は大いにある」とした。

 安藤氏は、テレビとSNSの関係を例に、相補関係が築けるものであると話す。「これまではテレビのユーザーがネットに流出していたが、今はSNSを通じてテレビを見ようとする動きも起きている。テレビは1つのメディアでしかなく、SNSの中のテレビか、テレビの中のSNSか、それともテレビとSNSが並立するか、それぞれの時代のシナリオを考えていきたい」と、安藤氏は語る。

 鵜飼氏は、無料メディアと有料メディアという切り口で、「どういったポートフォリオを組んでいくかの違いでしかない」と語った。「どういった仕組みにすれば人が集まり、そしてビジネスとして成り立つかを考えていきたい。どういったビジネススキームであれ、トータルでプラスとなれば問題ない」(鵜飼氏)

投資内容は柔軟に。キャピタルゲインは目的としない

 すでに日本テレビなどはcrewwへの投資を発表しているが、各社は具体的にどのようなステージに対しての投資を検討しているのか。これについては3社とも「シード期を含めてさまざまなステージで実施する可能性がある」と語る。  「初めの投資では20%未満で最大1億5000万円までの頃合いを目処にしている。もちろんシードからさらにシリーズAやBへの投資も可能性としてはある。タイミングとスピード感に応じて考慮する」(安藤氏)。「ボリュームは1億円かそれに満たないくらい。あくまでマイナーシェアでいたい」(鵜飼氏)。「マイナーシェアの中でさまざまな協業を考えていきたい。数千万円規模の中でオブザーバーとして定期的にディスカッションしていくる。TBS本体からの大規模な投資も視野に入れる」(仲尾氏)

 加えて3社とも、「キャピタルゲインを目的としていない」と強調。さまざまな選択肢があるが、株式は持ち続けることが普通のシナリオだと声をそろえた。

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