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漫画、特撮、アート--ウェブで“抗体医薬”の魅力伝える協和発酵キリン

藤井涼 (編集部)2013年12月02日 09時00分
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 スマートフォンの普及や通信技術の発展によって、ITは音楽や映像などのデジタルコンテンツを楽しむためのものから、より多くの消費者の生活を便利に、そして豊かにするツールとして進化を遂げつつある。この連載では企業のウェブでの取り組みを通じて、それぞれの領域におけるテクノロジーの持つ可能性について考える。

 今回のテーマは“製薬”。最近では、医薬品のネット販売の再規制の動きに楽天の三木谷社長が抗議したことなども記憶に新しいが、これはあくまでも一般の家庭用医薬品の話。医療用医薬品を製造して病院などに納入する製薬会社が、ウェブを使って一般消費者向けにブランディングをする事例はあまり見られない。それは消費者が直接の顧客ではないからだ。

 また、いまや企業のマーケティングには必須ともいえるソーシャルメディアのアカウントを運用している医療用の製薬会社も実は少ない。これは、ユーザーから特定の病状などについて質問されても医師でなければ答えてはならないことや、新薬の開発を望む声が寄せられても完成するまでに長い年月がかかることも珍しくない、医療業界ならではのデリケートな事情があるためだ。

あえて消費者向けに情報発信する協和発酵キリン

 そのような状況がある中で、医療用の製薬会社である協和発酵キリンは、ウェブを活用したブランディング施策を2010年から次々と展開している。それも、特撮テレビ番組「サンダーバード」とコラボしたキャンペーンや、人気漫画家・こしのりょうさんによるウェブ漫画など、あえて一般消費者に馴染みがあるであろうコンテンツを中心に制作しているのだ。

  • 協和発酵キリンで数々のウェブプロモーションを展開する長谷川一英氏

 それは一体なぜか。この背景には同社の成り立ちが深く関係している。協和発酵キリンは、2008年10月に協和発酵工業とキリンファーマが合併して誕生した会社で、抗体技術などバイオテクノロジーを基盤とした医療用医薬品を製造販売している。しかし、企業が合併した際には、以前よりも社名や業態の認知度が下がってしまうことが多く、それは同社も例外ではなかった。

 「協和発酵キリンという社名からお酒の会社だと思っている人が非常に多かったことが課題だった。そこで、製薬会社であるということを正しく知っていただくことが、弊社の採用活動や投資家への対応も含めて必要だろうということで、社名と業態認知の向上に取り組むことになった」――協和発酵キリン コーポレートコミュニケーション部 PRグループ グループ長の長谷川一英氏は、合併当時のことをこのように振り返る。ここから、同社のウェブを活用したブランディングが始まった。

ブランディングのテーマは“抗体医薬”

 まず最初に公開したのが、2010年に放送されたテレビ番組「情熱の系譜」と連動したiPadアプリだ。情熱の系譜は各方面で活躍する著名人を“現代の偉人”として紹介し、彼らが過去に影響を受けた“過去の偉人”を紹介する番組で、協和発酵キリンの1社提供によって放送された。この番組のiPadアプリでは番組紹介に加えて協和発酵キリンのCM映像なども配信したが、あくまでも番組内容がメインだったため劇的な認知度の向上にはつながらなかった。

 この反省を踏まえて、その後のウェブコンテンツには協和発酵キリンの社名や業態をよりイメージしやすいように、同社が研究を進める“抗体医薬”に関わる要素を加えることにした。抗体医薬とは、生体がもつ免疫システムである抗体を主成分とした医薬品で、副作用の少ない治療薬として近年注目が集まっている。

 このコンセプトのもとに2011年に公開したのが特撮テレビ番組「サンダーバード」を起用したキャンペーン「THUNDERBIRDS Lab.(サンダーバードラボ)」だ。このキャンペーンは、ユーザーがサンダーバードの新隊員となり、抗体医薬に関するレッスンや入隊テストなどのミッションをクリアしていくことで、“勉強している”という感覚を持つことなく抗体医薬について楽しく学べるというものだ。

 「家庭があり親も高齢で、健康や病気に関心の高い世代である40~50代がターゲットだった」(長谷川氏)ことから、その年代に響くアニメやテレビ番組として、機動戦士ガンダムや宇宙戦艦ヤマトも候補として挙げられたが「科学技術で人類を救うサンダーバードと、抗体医薬で人類を救う協和発酵キリンのコンセプトが最も合致した」(同)ため、同作を起用することにしたのだという。

  • 「サンダーバード・コーポレーション」

 人気作品とのコラボが話題を集め、サンダーバードラボは約47万人が参加するヒットコンテンツとなった。そこで2012年には第2弾として、架空の会社に入社して抗体医薬に関するクイズやゲームをクリアすることで、サンダーバードの隊員たちとともに会社を成長させられる「サンダーバード・コーポレーション」を展開。こちらも参加する“社員数”が3万人を超え、キャンペーンでありながら平均ログイン数が9回と高い継続率を記録した。

 同キャンペーンの展開後に、調査会社経由で20~50代の男女約3000人に調査を実施したところ、サンダーバード・コーポレーションを知っていると解答したのは全体の約1割で、期待していた数字には届かなかった。ただし、ターゲットとしていた50代の利用者が多かったほか、キャンペーンを知っていると答えた人の抗体医薬の認知度は8割、社名の認知度は9割におよぶなど、手応えも感じることができた。

2013年は独自コンテンツで勝負

 サンダーバードを起用したキャンペーンは成功したが、契約更新やコストを考えるとキャラクターを使用したブランディングを長期間展開することは難しい。そこで、2013年はオリジナルコンテンツにシフトすることにした。6月から「Ns'あおい」などで知られる漫画家・こしのりょう氏による描き下ろしウェブ漫画「新抗体物語」の連載を開始したのだ。消費者が親しみやすい“漫画”という表現を通じて、人の持つ免疫のメカニズムや抗体への理解を深めるコンテンツとなっている。

  • ウェブ漫画「新抗体物語」

 プロローグとなるスペシェルエピソードは、浪川大輔さん、沢城みゆきさん、細谷佳正さん、瀬戸麻沙美さん、斎藤千和さん、内田真礼さんなど人気声優6人を起用した音声付きのウェブ漫画として公開したことも話題となった。長谷川氏によれば、毎週1万前後のアクセスがあり、6月から現在までに累計20万アクセスを超えるなど、順調にファンがつき始めているという。11月19日には日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会のプロモーションサイト賞で優秀賞も受賞した。現在は月に2回のペースで新エピソードを掲載しており、約2年かけて展開する予定としている。

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