消費者に馴染み深く、楽しんで学べるコンテンツを提供することで、抗体医薬の認知度や理解を高めてきた協和発酵キリン。ところが、10月に公開された最新のウェブコンテンツ「Invisible Things(インビジブル シングス:見えざる想い)」は、これまでとは少し様子が違った。サイトへアクセスすると突然、生活空間の中にフワフワと浮かぶシャボン玉のような球体が1箇所へ集まり、1つの大きな塊へと変化する映像が流れるのだ。そして映像が終わると「幸せであってほしいと思う人、あなたには何人いますか?」というメッセージとともに、ユーザーが画面をクリックした数だけ球体が表示される体験型ページへと切り替わる。しかし、結局最後までどのようなサイトであるのかは明かされない。
なぜ、このような挑戦的なコンテンツを公開したのか。それはInvisible Thingsが、抗体医薬よりも“協和発酵キリン”という企業自体のブランディングを目的としたコンテンツであるためだ。長谷川氏は「企業のブランディングを考えると事業や会社の技術を伝える一方で、企業姿勢などよりエモーショナルな部分を伝える必要がある。その両方のバランスで確立するが、これまではあまりエモーショナルな部分を出していなかった」と説明する。
同社は2008年の合併にあわせて、“病気と闘うすべての人に笑顔を届けるために真摯に向き合う”という思いを込めた社員信条「私たちの志」を作成した。しかし「文章だと長いため中々読んでもらえない。そこで思想を表現するのにはアートがいいのではないかということで映像化した」(長谷川氏)という。映像はコンセプトデザイナーである富永省吾氏をはじめとする若手の新鋭クリエイターが手がけ、アートに関心が高いユーザーからは好評価を得た。
2010年からさまざまなウェブ施策を展開してきた協和発酵キリン。これらの影響もあってか、企業イメージ調査の結果にも変化が現れはじめている。企業名を聞いてイメージする言葉を聞いたところ、合併した翌年の2009年には“抗体医薬”というワードはランクインすらしなかったが、2012年にはこれが15位まで上昇したのだ。もちろん同社のブランディングとしての効果はあったと思うが、人々が日常生活では中々知る機会のない抗体医薬に対する認知度の向上にも寄与したのは間違いないだろう。
長谷川氏の次なる目標は、ユーザーとのコラボによって新たな価値を創造することだ。「サンダーバード・コーポレーションは3万人を超える大きなコミュニティになったが、他のユーザーとの交流はできなかった。今後は、企業があまりでしゃばらない形で、ユーザー同士がコミュニケーションでき、いろいろなことが自然に発生するような仕掛けを作りたい」(同)。
ただし当面は、抗体の魅力を伝えるウェブ漫画・新抗体物語の連載と、企業姿勢を伝えるInvisible Thingsの2本立てでブランディングをしていく。Invisible Thingsについては、同社の志に賛同するさまざまなクリエイターによる映像を通じて、今後も企業メッセージを伝えていきたいという。「海外の製薬会社などは社員を前面に出したコーポレートサイトを設けることがトレンドになりつつある。今後は協和発酵キリンでも、そういった企業姿勢を明確にすることで、会社自体にも親しみを持ってもらいたい」(長谷川氏)。
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