日本音楽著作権協会(JASRAC)と公正取引委員会(公取委)は11月13日、JASRACが放送事業者と結んでいる包括許諾契約が、独占禁止法違反にあたらないとする公取委の審判を、東京高等裁判所(東京高裁)が取り消したことを受け、最高裁判所に上告したことを発表した。
JASRACの包括許諾契約をめぐる一連の動きについてはこちらの記事を参照してほしいが、テレビやラジオの放送で使用される楽曲の9割以上をJASRACが管理し、その圧倒的な管理楽曲数をもって各放送事業者と包括契約を結んでいる現状について、議論の余地があるのは指摘するまでもない。
楽曲管理事業の市場開放という意味を持つ著作権など管理事業法の存在を考えれば、いまなおJASRACが圧倒的なシェアを誇る現状が「自然である」とは言い難い。特に放送番組使用という両者の関係性と信頼性が強い意味を持つ市場で新規参入を果たすためには、並々ならぬ努力が求められるだろう。
2009年、公取委から放送番組における音楽使用許諾契約に関する独占禁止法違反(私的独占)で排除措置命令が発せられた後、それを事実誤認としたJASRACの反論を経て行われた審判において、結果的に公取委は排除措置命令を取り消した。その大きな要因のひとつとなったのは、審判を重ねる中で次々と浮上した「新規参入側の明らかな手落ち」だ。
イーラインセンスがいまだ矛を収めずに訴えを起こし、それを受けた東京高裁が公取委に対し審判手続きをやり直すよう求めたことは、一見すると「弱者が強者に立ち向かう痛快劇」のように思えるかもしれない。が、公取委審決の中で明らかにされた「弱者側」の数々の失態は、JASRACのシェアや放送事業者の体質を気にする以前に「信頼をもって契約を結ぶに足らない」と判断されるものだった。
第9回~11回の審判で明らかになったその事実をかいつまんで挙げると、たとえば使用全曲目の報告を放送局側に義務付けておきながら報告用統一書類を用意していなかったり、提出した管理楽曲リストの内容が直前でころころ変わったり、といった具合。その上、報告漏れが発生した場合には通常料金の9倍の金額を請求するなど、制作現場からすれば利用回避こそが適切と判断せざるを得ない状況を発生させていたという。
決定的だったのは、排除措置命令で実名を挙げて「明らかな利用回避があった」とされたある楽曲が、調べてみると100回以上放送で利用された実績があったという事実が判明したこと。その詳細な数値データをJASRAC側から突き付けられ、逆に当該楽曲の管理事業者であったイーライセンスが把握していなかった(公取委はイーライセンスによる利用回避の訴えのみを信じて事実確認を怠っていた)段階で、もはや命令取り消しは時間の問題になっていたと言っていい。
冒頭に指摘したとおり、著作権など管理事業法にともなう管理団体の新規参入が認められている現状において、同法施行前から存在するJASRACが依然として圧倒的なシェアを持ち続けることについては大いに議論すべきことと考える。しかし、イーライセンスが原告となって、公取委に審決取り消しを求めるという現在の構図からは、本当の意味での変革につながることなど到底期待できない。
なにより「敵の敵は味方」となって公取委とJASRACが一時的とはいえ手を結ぶような状況を生みだしていること、それをイーライセンスがどう捉え、どう打開していくつもりなのか。公取委審決後、真っ先に行うべきだったのは世論や裁判所の考え方を確認することではなく、顧客である放送事業者や権利者の信頼を得ることだったのではなかろうか。
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