この連載では、シンガポール在住のライターが東南アジア域内で注目を集めるスタートアップ企業を現地で取材。企業の姿を通して、東南アジアにおけるIT市場の今を伝える。前回に続き、シンガポール国立大学(NUS)が運営するインキュベーション事業「NUS Enterprise」の支援を受けるスタートアップ企業の中から、同事業のメンターが推薦する企業を取り上げる。
今回紹介するのは、ユーザーが投稿した写真・クチコミで飲食店を探せるサービス「Burpple」だ。Instagramライクで見てるだけでも楽しめる。運営会社であるBurppleは、このサービスを自称“ソーシャルフードガイド”と表現している。スマホファーストで開発された「食べログ」と思っていただけると、そのコンセプトは分かりやすいだろう。
Burppleはウェブブラウザ、iOS、Android OS向けに展開されている。アプリを起動すると、自分がフォローしているユーザーが投稿したり、Reburp(リツイートのような共有機能)したりした食事の写真が表示される。
投稿された情報の中から飲食店名をタップすると、店ごとのページに遷移する。そこでは、Burpple上で人気のメニュー(写真、タイトル)とそれに関するクチコミ、店の地図、住所、地図アプリと連携してのナビ、営業時間、電話番号、店にチェックインしたことのある他のユーザーの一覧を見ることができる。
Burpple運営チームによる編集コンテンツで店を探すこともできる。アプリの検索画面には「NEWLY OPENED!(新店オープン)」「Nearby(周辺のお店)」「Weekend(週末に行きたい)」などのメニューがあり、店を選べる。気に入った店は「ウィッシュリスト」に保存しておくことも可能だ。
各店舗のメニューの網羅性は、どうしてもユーザーの投稿数やサービス提供期間に依存するし、常にそれが最新のメニューや、季節・期間限定のメニューに対応するのは難しいだろう。しかし、いま人気がある店や、自分が行きたい店の目星を付けるには十分だし、将来的に店舗側がメニューなどを編集できる機能が実装されれば、前出の課題も解決されるだろう。
なにより、Instagramなどのカメラアプリと見違えるほどに、写真のインパクトが強調され、店の特徴や魅力が直感的に伝わってくる。店のジャンル、人気度合い、自分の現在地からの距離など、店を探すときに参考にしたいあらゆる基準を網羅しているため、Burppleが提供する情報に信頼を感じられる。
自分が食事の写真を投稿したいときは、メニューバーのカメラマークをタップする。カメラを起動させてその場で撮影してもいいし、スマホのカメラロールから既存の写真を選択することもできる。写真を加工するフィルターは7種類。「Tapas」「Loco Moco」「Tiramisu」など、食事にちなんだ名称に愛着が湧く。
投稿画面では、写真のタイトル、店舗へのチェックイン情報、説明文、自分で自由に作成できるカテゴリ、Facebook/Twitterへの共有設定を行うことができる。「Done」をタップすれば投稿完了だ。
Burppleが拠点を置くシンガポールで著名な、飲食店に関するクチコミサイトとしては、「Yelp」(飲食店以外の業種も取り扱っている)や「Hungrygowhere」などがある。提供している情報の量においてBurppleはこれらに劣るが、情報の見せ方、そして友人を介してのクチコミを強調している点が差別化ポイントだ。
先述の通り、Burppleの情報の見せ方は、写真のインパクトを強調することに力点を置いている。そのため、テキスト重視のサイトを更新性で上回る印象を抱かせ、いつ訪れても美味しそうな食事の写真であふれているように感じさせる。さらに、友人を介してのクチコミを前面に押し出すことで、クチコミサイトとしてだけではなくSNSとしても機能している。つまり、身近な友人が最近どこで、なにを食べたのかが分かる。
これら2つの特徴から、飲食店を検索しなくていい時でも、ついアプリを起動してしまう、そんなユーザーの生活に入り込んでくるポテンシャルを感じさせる。
Burppleはこれまで115カ国、3300以上の都市で利用され、15万以上の写真が投稿されてきた(ユーザー数は非公開)。ユーザーが多いのは、シンガポールやインドネシアなどの東南アジア。中国や日本などを含めたアジア圏、アメリカやカナダなどにも広まっている。
投稿の多い食事は夕食(全体の約40%)、続いてランチ(28%)、そして朝食やティー(10%程度)だ。品目別では、コーヒー、ブランチ、デザート、ローカルフード、自宅での自炊などが目立つ。BurppleのCo-founderでありCTOのDaniel Hum氏は、Burppleが主なターゲットとするアジアの食文化や市場の可能性についてこう考える。
「アジアはとても食文化が強い。アジア人の多くがそうであるように、自分が食べた食事の写真を熱心に撮っては、友人にシェアしようとする。特にシンガポールは、新しいテクノロジーに対して感度の高い国でもある。Burppleのような、“食”と“技術”がかけ合わさったようなアプリにとっては、パーフェクトな市場」(Hum氏)。
収益化については、飲食店向けのパイロット版プログラムを先日実施するなど実験段階にある。また、日本語対応など日本向けのローカライズについても、近々実施する予定があると話してくれた。スマホファーストのトレンドで、既存の著名サービスが新興勢力に乗って替わられる。その地殻変動は、欧米や日本だけでなく、ここ東南アジアでも起こりつつある。
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