スマートフォンやタブレットユーザーが日々増加している昨今、大きな画面で動画を楽しんでいる、というユーザーも多いことと思う。テレビ番組をワンセグ、フルセグ放送で視聴できることに加え、さまざまな動画サービスが手軽に利用できるということもあり、自分の好きな番組を好きな時間に、好きなデバイスで視聴することが出来る環境が整いつつある。そのような中、今回はスポーツ、特にプロ野球中継の配信状況について取り上げる。
今やプロ野球中継は、WBCやオールスター、日本シリーズといった注目度の高い試合を除き、テレビの地上波放送から、衛星放送やインターネット中継へとシフトしてきている。かつて高い人気を誇った巨人戦の中継も、いまや地上波では年に数十試合程度しか放送されなくなっている。結果、球団人気は分散し、熱心なファンは衛星放送などでお気に入り球団の試合を見る、といった状況だ。
そのような中、インターネット中継に関しては、PCだけではなく、スマートフォン、タブレットなどといったマルチデバイスへの対応が進んでいる。このプロ野球のインターネット中継をパターン分けすると、以下の3つに大別される。
この各視聴パターンについて、事例の紹介と共に現状を分析してみたい。
まず、PC、スマートフォン、タブレット向けといったマルチデバイス対応にて、インターネット中継をしているケースだが、この事例としては「パ・リーグTV」や「ジャイアンツLIVEストリーム」が挙げられる。どちらも月額料金(1500円)を支払うことで、その月に行われる主催試合全てを観ることが可能となる月額見放題コースと見たい試合だけ選んで購入するオンデマンド型サービスを提供している。
どちらもPC、スマートフォン、タブレット全てで視聴可能といったマルチデバイス対応をしており、かつ主催試合を全試合ライブで見る事が出来ることを考えると、なかなか自宅で観戦する機会を設けられないファンにとっては非常にありがたい存在ではないかと思う。とはいえ月額1,500円ということは、フルシーズン見るとなると1万円近くかかることになってしまい、正直高いと感じてしまう。
一方、「ニコニコ動画」でもプロ野球を放送している。ニコニコ動画の無料会員であれば、「横浜DeNAベイスターズ」「東北楽天ゴールデンイーグルス」「福岡ソフトバンクホークス」といったIT企業関連球団の主催試合を全試合視聴することができる。月額525円のプレミアム会員登録をすれば、過去の試合も視聴可能となるなど、有料課金への導線も設けられているが、何といっても無料で全試合を生中継で見る事が出来るのは嬉しい限りだ。
「ニコニコ動画」に関しては、動画配信による課金で直接お金を稼ぐというよりも、対象3球団のファンに対して「ニコニコ動画」の利用を促し、サービスアピールと共にプレミアム会員登録へ誘導しようとする意図が窺える。更にその上で、比較的ライトなユーザーに試合の視聴機会を提供し、ファンを増やそうという意図も窺われる。その点では、前述の「パ・リーグTV」や「ジャイアンツLIVEストリーム」のような課金収益モデルとはやや異なるビジネスモデルを展開しているといえよう。
次に、CS放送事業者が、契約者向けにPC、スマートフォン、タブレットへCS放送向け野球中継を配信しているケースである。事例としては、「SWALLOWS BASEBALL L!VE 2013」が挙げられるが、有料CS放送チャンネルを契約したユーザーを対象に、その番組をPC、スマートフォン、タブレットといったデバイスでも視聴できる形にて配信している。CS放送に契約することで、いつでもどこでも各種インターネットメディアを通じて野球中継が見ることが出来るという内容だが、CS放送を契約していないと視聴できないという点の敷居が高い印象があり、見たいときに手軽に見る、という段階には至っていないと感じる。
もうひとつが、スマートフォン、タブレット向けのモバイル専用サービスとしてインターネット中継しているケースである。事例としては、阪神タイガーズ(以下、阪神)が提供する「虎テレ」が挙げられるが、月額630円の見放題コースと1試合210円の個別販売でライブ中継と過去試合動画を提供しており、他の動画配信サービスよりも比較的安い値段で楽しめる。
またコンテンツのウリのひとつとして、選手名やイニング等から見たいシーンを検索できる機能や、自分のお気に入りシーンを登録できるマイページ機能など、スマートフォン向けサービスとしては最も機能が充実しており、ライトなファンからコアなファンまで楽しめる内容になっている印象だ。但しPCでの視聴は過去の試合動画のみとなっており、ライブ中継の配信は行っていない。
このように現状の視聴環境をみると、数多くの試合をインターネット上で見る事が可能という状況が明らかになる一方、
といった問題点も浮かび上がる。故に、熱心なファンでも視聴する試合数は限られることが想像されるし、ましてやライトユーザーは視聴しようとすらしないだろう。まずは全試合のインターネット配信を実現した上で、その視聴方法に統一性を持たせる、簡易にする、果ては各球団が連携し、ひとつのプラットフォームで配信するなどといった取り組みを実施して欲しいところだ。
勿論、最大のハードルは課金というビジネスモデルであり、それ故にライトユーザーにとって利用しがたいサービスになっているのが現状である。現在の動画配信サービスにおける課金モデルとしては、ファンを対象とした、試合中継観戦に対する月額課金が中心である。どのようなビジネスモデルを採用するかは、リーグもしくは球団によるところではあるが、ファンの視点からいうと、是非試合の視聴自体は無料にして欲しいところだ。
その上で、広告モデルであったり、アーカイブやデータの閲覧などに対する課金、サイト上での物販展開などといったビジネスモデルを実施してはどうだろうか。そうすることで、ライトユーザー層の利用も期待でき、動画視聴をきっかけとしたファンの拡大につながり、球場に足を運ぶファンも増加するのではないだろうか。
いつでもどこでも、見たいものを見る事が出来るといった環境自体は整いつつある。あとはコンテンツの提供形態、ビジネスモデルの変化に是非期待したいものだ。今回は野球中継を通じて現状を分析してみたが、同じことは他のスポーツにも言えるだろう。インターネット環境、デバイスが整っているにもかかわらず、見たいスポーツを見る事が出来ないというユーザーはまだまだ存在するはずである。
インターネットを通じてたくさんのスポーツを視聴する機会を設け、ファンの拡大に繋げ、実際の試合会場に誘導するといった流れを是非多くのスポーツにおいて実現して頂きたい。東京でのオリンピック開催が決定したが、様々な競技に対する視聴機会を設け、その関心度を高めていくといった取り組みも重要なのではないかと思う。
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