通信のゆくえを追う

そのサービスは誰のため?--キャリア中心の開発体制が日本のメーカーをダメにした - (page 3)

菊地泰敏(ローランド・ベルガー)2013年07月22日 07時30分

 この何か目新しいモノの一つが“第三のOS”である。「Tizen」や「Firefox OS」がその代表といってよいだろう。いわずもがなであるが、“第三”と呼ばれる所以は、Appleの「iOS」とグーグルの「Android」という“二強”に次ぐ、という意味である。

 第三のOSを使うと誰にどんなメリットがあるのだろうか? メーカーやキャリアのメリット(狙い)は明らかである。二強の支配からの脱却以外の何ものでもない。アプリケーションの開発者にとっては、OSごとの差異に気を使わずにアプリケーション開発に専念できることがメリットと言えよう。

 それではユーザーにはどんなメリットがあるのだろうか?

 OSが変わることで、今までできなかったことができるようになる、ということはなさそうである。それでは、今までより便利になる、早くなる、使いやすくなる、そういう側面はあるのだろうか? 電池の持ちがよくなる、タッチパネルの反応感度がよくなる、通信速度が早くなる。そういったエンドユーザーが享受できる明確なメリットを見出すことは難しいといわざるをえない。

 第三のOSとはキャリアやメーカーと言った供給者側の論理で作られた、いわばエゴであり、そこにユーザーの視点はないというのが本当のところではないのか?

 反対に、地味ながらも、エンドユーザーの価値提供に結びついているメーカーは、その業績も好調である。途中触れたように、完成品メーカーとしての日本の携帯端末各社のプレゼンスは風前の灯といわざるをえない。が、部品メーカーはなかなか好調なのだ。村田製作所、京セラ、太陽誘電といった代表的なスマホ部品メーカー各社の決算発表を見てもわかる。スマホやタブレットに利用されるコンデンサや半導体などが、電池の持ちがよくなる、タッチパネルの反応感度がよくなる、通信速度が速くなるといったユーザー価値に貢献しており、各社の好業績のけん引役になっているのである。

 OSも部品の一つ。たとえその効果が小さかったとしても、ユーザーに対する明確なメリットを提供できなければ市場に受け入れられる可能性は小さい。

 “端末”はユーザーにとってみれば“入口”なのである。ユーザーに対する提供価値は何か、という根源的な視点を忘れてはいけない。

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菊地 泰敏
ローランド・ベルガー パートナー
大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、同大学院修士課程修了 東京工業大学MOT(技術経営修士)。国際デジタル通信株式会社、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。通信、電機、IT、電力および製薬業界を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、商品・サービス開発、研究開発マネジメント、業務プロセス設計、組織構造改革に豊富な経験を持つ。また、多くのM&AやPMIプロジェクトを推進。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略基礎およびオペレーション戦略を担当)

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