オレゴン州ビーバートン発--Phil Black氏は6月、当地のNike世界本社にあるタイガーウッズセンターのステージに飛び乗ると、床に倒れ込んだ。そして元ネイビーシールズ教官のような正確さで、腕立て伏せを何回か、完ぺきにこなして見せた。実際にBlack氏はネイビーシールズの教官だった。
それから同氏は良く響く声で注目を集めながら、腕立て伏せと同じくらい簡単に、その場に集まっていたベンチャーキャピタリストたちに向かって、自分のスタートアップであるFitDeckに投資すべき理由の数々をすらすらと話した。FitDeckは、同氏が自分のガレージで生み出したフィットネスをテーマとするプレイングカードを既に430万ドル相当販売している。そして現在は、Nikeの人気電子リストバンド「FuelBand」と連携させた日々のワークアウトメニューを提案するアプリを開発して、そのビジネスを収益化するための資金調達を行っている。
「実際に資金がやって来た。本当に影響力がある」と語るBlack氏は、軍隊での経験を持つだけでなく、ハーバードビジネススクールの卒業生であり、Goldman Sachsの投資銀行家だったこともある。
FitDeckの売り込みは、Nike+ Acceleratorのデモデーの一部だった。Nike+ Acceleratorは、アプリケーションプラットフォームを活性化させるためにNikeが2012年12月に発表したプログラムである。Nikeは、スタートアップへのメンタリングを行うTechStarsからの支援を受け、FitDeckを含むアプリ開発者10社にそれぞれ2万ドルを提供するとともに、メンタリングの機会とポートランドのオフィススペースを提供した。その目的は「Nike+」テクノロジを用いる健康やフィットネスのためのアプリを開発することだ。Nikeは米国時間6月20日午後にサンフランシスコのドッグパッチスタジオで、ベイエリアのベンチャーキャピタリストを対象とした2回目のデモデーを開催している。
Nikeは決して、次の消費者向けテクノロジの大手企業となることが確実な企業ではないかもしれない。結局のところ同社が世界的に知られているのは、ランニングシューズやサッカーのスパイク、スポーツアパレルゆえだ。しかし過去数年間、同社は消費者向け電子機器の分野でのビジネス構築に非常に力を注いでいる。
Nikeは2006年にNike+を発売して、消費者向け電子製品の分野に飛び込んだ。Nike+は、同社のランニングシューズの中に装着するセンサで、速度や走行距離といった運動データを記録し、その情報を同社のWebサービスと連携させるものだ。同社はライバル企業のはるか先を行っていた。ライバル企業の1つであるadidasは、そっくりな競合サービスを作り出そうとしていた。
発売から15カ月たったNikeのFuelBandは、ウェアラブルコンピューティングビジネスをリードしようという同社の試みを徐々に前進させている。価格が150ドルのFuelBandには、シューズに装着するセンサに以前あったのとほとんど同じ機能がある。ユーザーの歩数を検出できる内蔵型の三軸加速度計を使った運動のパフォーマンスの記録や、体重や身長などの個人データとの組み合わせによる消費カロリーの計算を行う。さらにNikeは、ユーザーの年齢と体格に対応した運動量を測定するFuelという独自の指標を開発した。
ただしNikeがしているのは、洗練されたデザインの面白いガジェットをいくつか提示することだけではない。Nikeは、MicrosoftやAppleのような大手テクノロジ企業がこれまでにしてきたようなことをしている。つまり、ほかの企業の足場となることを期待して、テクノロジプラットフォームを構築している。Nikeは、FuelBandが生成したデータを使うアプリを開発するように開発者に働きかけている。それは、FuelBandをより多くの消費者の用途に合ったものにするためであり、それが実現すればさらに多くの開発者が引き寄せられるはずだ。
テクノロジの世界では良く知られているように、Microsoftの「Windows」が市場を独占する原因となったのはそのような好循環だった。開発者たちは世界中で10億人以上が使っているこのプラットフォーム向けにアプリケーションの作成を続けており、Microsoftは200億ドル近くの年間売り上げを見込んでいる。同様に、Appleの「iTunes」ストアにある数多くのアプリと、そうしたアプリを使ってユーザーが生成し、保存するデータは、Googleの「Android」OSを搭載するライバル端末が急増する中にあっても、Appleの「iPhone」がスマートフォン市場のシェア首位を維持するのに役に立っている。
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