オーディオコンポーネントの中でアンプの占めるウェイトはきわめて大きい。しかしiPhoneをはじめとするポータブルオーディオプレーヤーに組み込まれるアンプはスペース、使用部品、電源などに大きな制約がありベストなものとは言えない。そこで、より高品位な音楽再生を目指して外部に設置するポータブルヘッドホンアンプが内外より数多く発売されるようになり、ポータブルオーディオ製品の一大ジャンルを形成するようになった。
ELEKITの名称で全国の家電店、DIY・ホビーショップでオリジナルの工作キットを販売しているイーケージャパンは、入力部に米国の名門レイセオンのサブミニチュア管6418を採用し、真空管式ながら実用性の高いハイブリッドポータブルヘッドホンアンプ「TU-HP01 」(1万9950円)を5月23日に販売開始した。現在では7月上旬入荷という人気ぶりだ。
真空管にはノスタルジックな雰囲気も含めて独特の音色イメージがあり、アンプの増幅素子として根強い人気がある。ELEKITからも真空管アンプキットが数種類ラインナップされているが、アウトドアに持ち出すポータブルアンプとしての実用性はどうなのだろうか。ポータブルアンプの存在価値は明確な音質向上にあるが、現代にマッチした価値あるサウンドを聞かせてくれるのだろうか。
「TU-HP01」は入力段に真空管、出力段にオペアンプを使用したハイブリッド構成を採用している。真空管は電子を放出するためのヒーターが常時点灯し消費電流、発熱の問題や、動作のために高電圧が必要である、などポータブル化のためにはさまざまなハードルがある。
本機では一般的なミニチュア管よりさらにサイズが小さいサブミニチュア管を左右各チャンネルに2本使用。ヒーター電圧は1.25V、ヒーター電流は10mA/本と極少だ。このため発熱は全くといって良いほどなく真空管らしいヒーターの発光も見えない。半導体とほとんど変わりない印象だ。本体のケースには6個の放熱孔があるが、取扱説明書によると裏返しに使用して孔をふさいでも放熱上の問題はない。電源をオンにすると放熱孔から見た内部がヒーターに照らされたようにうっすらとオレンジ色に光るが、実は発光ダイオードによる演出だ。プレート電圧は実測で約15Vと低いものだった。
本体背面のローレット式の2つの「つまみネジ」を外して、中から引き出した電池ボックスに単4アルカリ、または充電式ニッケル水素電池4本をセットする。このあたりのフィーリングはキットメーカーならではのハンドクラフト感が感じられるが、電池による音の違いを探求するといった楽しみ方もできるかもしれない。本機には外部からの給電や電池を充電する仕組みはないのでバッテリが消耗したらその都度交換をする必要がある。
バッテリの持続時間は気になるが、カタログ表記上の無信号時の消費電流が約55mA。ニッケル水素電池を使用して実際に測定したところほぼその通りで、音量を上げてピークで60~70mA程度。これであればカタログ通り一般のニッケル水素電池(750mA/Hクラス)で10時間以上の連続使用が可能で、実用上の問題はない。このように使用面でことさら真空管であることを意識する場面は全くない。ただしオートパワーオフのような機能がなく無音時でも一定の電流が消費され続けるため音楽を聴き終わったら電源を確実に切ることを心がける必要がある。電源はボリュームを回し切るタイプで、高品位なパーツが使用されているため操作はきわめてスムースでストレスを感じることはない。
さて。ソースにはソニーウォークマンZ1000、イヤホンはゼンハイザーIE800を中心に、ゼンハイザーHD-25、デノンAH-D600を使用して試聴を行う。本機の推奨インピーダンスは16~32Ωとなっている。
驚くことに真空管であることを全く意識させず電源ONですぐに音が出る。ポップノイズはきわめて少なく、ホワイトノイズも極小レベルできわめて快適だ。サウンドは立体感があり、適度な押し出し感のある説得力のあるものだ。解像度を必要以上に追求するサウンドではないが決して甘い音ではなく、充分な情報量が感じられ、音場感、空間表現力は秀逸だ。ことさら真空管を意識させる音ではないが、包容力を感じる骨太のサウンドである。真空管であるがゆえに礼賛する立場は全く取らないが、この音質は充分に高く評価できる。
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